——トラヴィス・レイン・ハーグリーヴズ。汝を、冒険者として元素の世界に派遣する——

万神教会での会議が終結してから一週間経った日。
転送の儀はアクシデントもなく行われ、私はメルンテーゼに“派遣”された。

……のだが、別天地での活動にまだ慣れきっていない。
というのも、こちらに飛ばされてから二日ほど、とある街にて身を休めていたからだった。
どうやら私は、飛ばされてきた際に街の一角で気を失っていたようだ。そこに通りかかった街の人に発見され、彼らによって介抱されていたのだ。
そのときにお世話になった人が言うには、一揆に加勢したくばまずは王城前に行くといいらしい。
そして、彼らが私に譲ってくださったのがこの一輪の花。ネクターと呼ばれる花で、エンブリオと呼ばれる存在と契りを交わす際に必要なものらしい。

この世界についても、知らないことはまだまだ多い。
理解できたのは、この世界の民の生活が、エンブリオと呼ばれる存在によって支えられていること。
エンブリオとの契りを交わすには、この世界に自生する花が必要であること。
そして、この世界の王が、身勝手な行動を起こしていること。
その身勝手な行動、というのは、その重要な役割を持つ花「ネクター」を独り占めしている、ということだ。
これにより、エンブリオによって支えられていた民衆の生活が危機に瀕しているという。

民衆の生活が危機に瀕しているならなおさら、民衆に手を差し伸べなければならない——
最初から、その意識はあった。
主に宗教を通して、民衆の生活を支えていくのも、聖職者の役目。
だからこそ、今回の一揆に加勢するつもりだった。
冒険者として民衆に加勢し、王の身勝手な行動を止めさせること。それが、今回の任務の目的である。

しかし、まだ十分な経験を積んでいるといえない私に、この任務が務まるのか？
確かに私には、魔法の力もある。だが、こんな大役を務めるには、私では——

「そんなに思い悩まないで欲しいわ」

そこに現れたのは、背に純白の翼を負った女性だった。
彼女はいわゆる天使（エンジェル）と呼ばれる存在。私の故郷でも、一部の神に仕える天使の存在は信じられている。
いや、正確には彼ら天使は存在すると言うべきか。なぜなら、その姿を見た者が少ないながらも存在するからである。
今の私にも、彼女の姿ははっきりと視認できる。

彼女は私に告げる。
「冒険者たちだけの力では、この事態は解決できないでしょう。
　ですが、この世界ではエンブリオの存在が鍵を握ります。
　その力を借りれば、いかなる困難にも対抗できるはずです」

そこで私は考えた。互いに支えあう存在として、彼女と共闘しよう。
つまり、彼女を最初のエンブリオとして連れて行くということだ。

私は彼女に共闘を提案し、彼女もそれを受け入れた。
幸い、街の人より譲り受けたネクターもある。
すぐに契りの儀式を行う。恙無く契約は結ばれ、彼女は私の最初のエンブリオとなった。

これで全ての準備は整い、我々はすぐに王城前へ向かった。
そこで待っていたのは、二人の人物——一人は見るからに活発な女性、もう一人は隻眼の男性だった。
この二人が言うには、ここでの腕試しで勝てば、新たにネクターを預けるらしい。

どうやら、ここで最初の試練が訪れたようだ。