私は疲弊している。
もちろん同行者の奴の睫毛を整えてやる、奴の髪を整えてやる、奴の紅を……ということが原因ではない。
追っ手が異常なまでにしつこいのだ。考えられないほどにしつこい。そのくせ執行が仕事の奴らは出向いてさえこない。その気になれば一瞬で二人とも血煙に変えられる化け物が数人いることを私は知っているが、その三人ともが動いている気配はない。
このことから、私を泳がせたいのだということは容易に考えが及ぶ。
私がベロニカを使って何がしたいだとか、そういう風に目的を持ってこういうことをやっているのだと、彼らは思っているのだろうか。

ここ数日は追っ手を見ていないので、そろそろ安心してよいころかもしれない。そう考え、この地の一揆に参加することにした。これほどまでにうじゃうじゃと冒険者が集まっているのだ、森の中ならちょっとした畸形樹でも隠せることだろう。
とりあえず連絡を多方面に送りながら、道を作ることが必要になる。それまではこのお嬢さんのお守りだ。
難儀だが昔を思い出す。

（剣から無数の血管が腕に延びるようなおぞましい錯覚）

（剣を鞘にゆっくりと納めると、ラルフではない男の声と思しき絶叫が静かに現れて消える）