どろり。首を起こした時はそんな粘着質な感覚。髪の毛を伝うような重さ。
寒さを自覚する。ほぼ全身をくまなく水に覆われており、随分体温を奪われているようだ。
「……？」
眠ってしまっていた？　なんだか、どうにも、『合わない感覚』。
身を翻して顔を浸す。再び水に潜ればまるで自分が魚にでもなったかのように自然な感覚。
気持ちい……しかし、大して息を吸い込んでもいなかったので簡単に息が苦しくなり。ものの数十秒で限界が来た。
空気を割って、出来る限り息を吸う。違和感は無い。馴染んだ？　大丈夫？
手のひらを思い切り空に向けて、大きく伸びをした。自然、笑顔になる。
「おっ────っはようございまぁああああああああっす！！」
静寂の中で合図のように響き渡る声。ばさばさ、ざわざわと誘われるように森が動き出す。

　意味？　無いよ、叫びたくなったの。ゆっくりと泳いで湖の岸辺へ。
体には水着代わりのぼろ布が上下二枚巻きつけられただけ。
別に、誰も来ないし誰が通りかかっても気にしなんだけどね。裸で泳いでいると叱られちゃうし。
もう水で濯ぐくらいじゃ取れないほど薄灰色が染み付いているから大して透けない優れもの。適材適所。
「っしょっと」
　ぬるんっ、と水から体を引き上げる。あらかじめ用意してあった清潔なタオルで体を拭いてざっと体に軟膏を塗りつけた。
肌が弱いと難儀するわね、と姉に言われた事を思い出す。そんなことないよ、私平気だから。
慣れれば大したことは無いのだ、どんなことだってきっとそう。
お姉ちゃんのためだ、頑張りましょう。どうせとかしてもぐしゃぐしゃになる癖っ毛を適当にタオルで叩いて水気を落とし。
森の間から頭をのぞかせているおおきな『王城』を見た。きっともうたくさんたくさん人が集まっているだろう。
眉根に皺を寄せて、ぐっと両手を握り締め。ファイティングポーズのような格好で気合を入れて、
ピオは一揆への第一歩を踏み出した。後戻りする事は、無いのだ。