〜prologue〜


　その世界、"サンテストラ"は急速に膨れ上がっていた。

　異なる世界の境界線を融解させる技術が発明されて以降、他世界よりも比較的優れた技術力と軍事力を持つサンテストラは幾つかの世界を併合していった。連なった世界では異なる文化、科学、物資が交わり、それまでとは全く異なる文明が誕生した。
　サンテストラが他世界から得た物として一番大きなものと言えるのは"魔法"であろう。魔法を尊ぶ世界から吸収したそれはサンテストラの民の注目を引き、科学一辺倒であった民を唸らせた。一見何も無い空間に物体を生み出し、指先に揺らめく炎を灯す。神秘的で今までの彼らの常識からはかけ離れたその光景は、瞬く間に彼らを魅了した。
　
　サンテストラの技術者によって"魔術理論"が完成された後、科学と魔術の融合した文明はまさに黄金期であった。今まで注目されずにいた物質に、疑似的にではあるものの"機械に魔法を使わせる"ことを可能とさせる性質が発見されると、その技術は瞬く間に開発、応用され、今までにない効率化や自動化が進められた。

　しかし隆盛を極めたその文明では一つの問題が深刻化する。

　資源の枯渇だ。

　融合した広大な世界とはいえ、存在する資源は有限である。追い討ちをかけるように爆発的に増加した人口、使い捨てられるだけの資源。初めは徐々に磨り減る程度のものが、まるで飢えた獣に食らい尽くされるように減少していったのだ。それに気付く頃にはもはや対策を講じるための時間すら残されておらず、統一世界の首脳部は苦渋の決断を下した。

　侵略による略奪である。

　予てより使用されていた世界間移動の技術を使用した他世界の調査。その世界に確認された資源を吟味し、併合するか否かを決定するのだ。多数の世界に、平和的に、或いは半ば強行的に調査官を送り込み現地調査を行う。調査官は現地で短期間、その世界に存在する種族、文明などについても記録を残す。地形、天候、生態系などに関してもだ。そうして集められた世界の情報はサンテストラの中央統制局に収められ、いずれ来る侵攻の際の重要資料として保管される。

　この方策に対しては多くが反発したが、それよりも多くの者が是認した。

　中央統制局は大々的に調査官を募集。学に優れるもの、外交に優れるもの、そして厳しい環境や敵対地での戦闘に耐えうる者を条件とした。"世界を救う"という題目の下集められた数は延べ数万。圧倒的大多数の正規軍兵士と、統制局に認可された非正規軍兵がごく僅か。文民は一握りの者のみが採用された。実質上の軍隊である。

　訓練なども用意しない早急な準備の末、星の数に等しい世界の中から一人一人に行き先が宛がわれる。

　ここに、サンテストラの命運をかけた他世界調査が開始された。