黒々と続く森の奥、不意に開けた空間にその泉は存在する。
広げた両手にやや余る程度のごく小さな円。
湧き出した水はただそれだけを成すとまたすぐに地下へと流れ込み、
あとはどこへ注ぐものか、その行方を知ることはできない。
周囲に聳える木々の並びもまた綺麗な円形だ。
日中から薄暗い森の中にあって、見上げれば切り取られた空が見える。
人の手の入らない奥地、何か大きな存在の計らいによって成立したような空間。
聖域とはこのような場所を言うものか。ここではいかなる祭壇も無粋なものでしかない。

聖域は天と地上からの光にうっすらと照らされている。
天には真円の月。切り取られた夜の中にあって、その存在は常よりも大きい。
地上から応えるように、競うように光を返すのは、泉のほとりに咲いた一輪の花だ。
透き通るように白いその花弁が、燐光を発している。

花弁が一枚水面へと落ち、波紋を立てる。
そこに映りこむのは変わらずにある月と……そして聳え立つ巨大な城。
広大な敷地に造られたそれはまるで要塞のようであり、
また、自然に溶け込むように造られているため、群峰のようにも見える。

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「これが最後の勧告だ。従わぬならば、もはや汝に教会の保護はないものと知りなさい」

「じゃあ名前が必要なのね。人としての、名前が」

「自分でも分からんのだよ。これが親心か、それとも二十年ものの妄執なのか。君を、巻き込んでもいいかね？」

「神や王の為とは言わん。青服どもから家族を守りたいなら、俺を手伝え。
　なに、お前にも似合いの軍にしてやるさ。”梟”の隣人、森を駆けるもの。そう我々は……」

「いや、嫌……私は殺したくなんてない！」

「子供たちのこと、お願いね。大丈夫、最後には……」



——よう、待ってたぜ。

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遥かな、あまりに遠い分割世界。
認識されぬが為に未だに名前すらも無い、そのような場所。
その隔たりを超え、セロ・プランシーはメルンテーゼに降り立った。
魔力も、技術も、知識もない男をこの地に導いたのはいかなる運命か。
その結末は、”彼女”だけが知っているだろう。