誰が悪いかと言えば大体新王が悪い。
かくして現体制の害悪となるべく、反乱軍へ参入することに。
……どうしてこうなった。


メルンテーゼの北方にある、氷山の村。
一番近い村でも山一つ向こうであるため区別のための名前はなく、それでも問題が起きない程度に僻地の集落である。
そこが私達の出身地だが、今はある問題が発生していた。
ネクターの枯渇を由来とする、住民たちの不調である。

村は氷竜の住処に仕える者達を軸に構成されている。
気候は厳しく、普通の生物では居住に適さない地だ。
だがここは元素の世界メルンテーゼである。
村にも精霊やら、魔獣やら、竜人やら、気候の影響などものともしない住人が揃っている。
今回の問題は、それが仇となった形だ。

直ちに命の危機につながるものではないが、ネクターがなければ実体化できなかったり、肉体に備わる固有能力が衰えたりと、徐々に暮らしにも影響が出ている。
春の精霊である奥方様も、やはり例外ではない。
今はまだ平気ではあるが、ネクターの供給が止まったという状況が改善する見込みはないため、まだ余力があるうちに何か行動を起こさなければならない、とは誰しも考えていたことだ。


ところでお嬢様はだいたい唐突である。
良く言えば物怖じせず常に新しいことに挑み続ける姿勢を持っているとも言えるし、悪く言えば脊髄反射で生きているとも言える。
氷竜と春の精霊のハーフと言う、母譲りの可憐な外見を裏切るお転婆、と言ってもいいかもしれない。
そのお嬢様の行動力は、この問題にも迷いなく発揮された。
ある日の昼下がり、いつものように勢いよく扉を開けるなり一言。

「カレン、お城に行こう！」

危うくおやつのパンケーキを吹き出す所でした。

目がキラキラしてる。
しっぽが興奮気味に持ち上がって、先端付近がうねっている。
まだ見ぬお城、都会と言うイメージに憧れと期待を抱いている様子。
と同時に、あ、これはダメだ、止めても無駄なので近くで被害を抑える方向で動くべき事柄だ、とも理解する。
台詞ではすっ飛ばされた行間を意訳するに、ネクターの枯渇は見逃せない問題だから、王様に独占はやめてくれるようにお願いしに城まで行こう、という所か。

新王がネクターの独占をした結果が今の状況だとは風聞には伝え聞いている。
だが詳しいことは僻地ゆえにほとんど知れていない。