雄大な緑が広がる大地に降り立った私は誰ともなしにぽつりと呟いた。
その緑は自然のものと、農耕によるものの見事なコントラストだ。

異界には何度か……いや両手では数え切れない程度には来ているが、ここまでしっかりとした異世界に来たのは初めてだった。
目的は一人で黙って消えた美浜家の『お嬢様』——私にとっては『先輩』でもあるのだが——を連れて帰るため。
尤も、何も告げずにいなくなった割には環ちゃん——美浜家の『剣』にしてお嬢様の妹——の愛刀を持っていったのでこうして魔力探知が可能だったりするのだが。
その環ちゃんはというと、姉が突然失踪したことにより起こった問題の解決に走り回っていた。
本当は自分が助けに来たかっただろう。

「二人でお姉ちゃんを助けていこう」

あの時二人で誓ったことに違わないためにも、私が頑張らなければならない。

どうやら山を越える必要があるらしいことも含めて再度気合を入れなおしつつ、私は歩き出した。


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結論から言うと、先輩との合流自体はあっさりとできた。だが、すぐに帰還することはできなかった。
無事に着いただけでも運が良かったのは確かで、何も障害無しに帰還できるとは思っていなかったけれど……

記憶喪失というのは予想すら出来なかった。今の先輩に異世界間転移の術式など組めるはずもなく。

今の私に出来るのは、ルリアンナという少女の言うままに一揆に参加し、先輩の『槍』となることだけだった。
私に関して言えばある意味いつもと変わらないだろう。
ただし、隣にいる先輩は……

何をしても護らなければならない。
ルリアンナの言う所によると4人一組での行動が基本となっているらしい。
この世界に詳しい人と行動を共にすることを視野に入れた方が良さそうだ。


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それからほどなくして。

この世界で魔力がどの程度使えるか、私も試させてもらうよ、と心の中で付け加えながら。
私は目の前でファイティングポーズを取る大男に向かって槍を構えた。