〜ただの日記〜

—○月×日—

まず正直に告白しよう。俺は迷子である。

そもそも、別の世界に急に飛ばされるということは、俺の24年の人生経験から言ってもそう起こりえることではない。
常識的に考えてあたふたすることはなんらおかしくないはずだ。
まわりの状況を把握できずに混乱するというのは実に考えられる出来事だと思う。

逆に、俺みたいに冷静でいられるのはむしろ凄いことなのではないか？

俺はこの急な状況の変化にも慌てずに自分のやるべきことを考えた。
このへんの判断力は昔からの鍛錬と経験で磨かれた物である。言ってみれば俺の普段の生活の賜物であるといって良い。

周囲の地形を読み、一人旅の経験を活かした俺はすぐさま小さな村を探し出す事に成功した。
そこで、この世界のある程度の情報(メルンテーゼとかいう世界らしい)を聞き出した。
なるほど、話を聞くとどうやらこの世界でIKKIという物が始まるらしい。
俺がこの世界に呼ばれた理由もどうやらそのへんにありそうだ。目的地は決まった。

俺はIKKIに参加するべく村を出た。
もちろんIKKI参加者が集まっているという場所の地図をもらうことも忘れずに、だ。
完璧である。テストで言えば100点。満点である。

だから、俺がその地図を道のどこかで落としてしまったという些細なミスは目を瞑ってしかるべきだと思う。人間には寛容なこころが欠かせない。

重ねて言おう。俺は迷子である。








—○月△日—

道も分からずひたすら歩いてたら、エンブリオとかいう奴に出会った。
この世界の精霊みたいなものだろうか。
正体は良くわからないが、とにかく、俺は道を聞くことにした。

すると、エンブリオとやらは俺に契約を求めてきた。
契約というのがなんなのかはわからないが、怪しさ全開である。

こういうのにうかつに契約すると、運気が上がる壺やら運勢が上がる宝石やらを高い値段で買わされてしまう。よくある手法だ。そんなものに引っかかる俺ではない。うちに帰れば昔買ったやつがずいぶんあるからな。経験が活きたという奴だ。

俺は契約を丁重にお断りして、歩き出した。
道は聞けなかったが壺や宝石を買わされるよりましである。

さらば、エンブリオ。

契　　　約　　　完　　　了






—同日—



まったく魔術が使える気配が無い。
ジーザス!騙された！












—○月○日—

道を歩いていたら、軽トラと遭遇した。
言葉を話す軽トラなんてめずらしい。
とりあえず話をかけてみる。

そうしたら、なんとIKKIの場所まで乗せてってくれるという話になった！
なんて良い人！いや、良いトラックだ！

俺はお言葉に甘えて運んでもらうことにした。
彼は自分のことを「ギャリィ」と名乗った。愛称は「トラ吉」というらしい。全然関連性が無い。

俺は勝手に、タイガーと呼ぶことにした。










—同日—

王城前、到着