「………うるさい」

いつも通りの朝かと思ったけど、今日はどうにも違うようだ。
外が活気に満ち溢れている。わいわいと騒がしい。
窓から覗くとたくさんの人がせわしなく動き回っているようだ。

「しろ、しろ」
「ふむ、我輩に何かようか？」

なにもないところからふっと黒い影が浮かび上がる。
もわもわとしたそれはゆっくりと見慣れた形を作り出していった。
ボクのエンブリオのシェイド、名前はしろ。本当はフェアリーとかエンジェルが良かったんだけど、契約の儀式で失敗しちゃったらしく、シェイドになっちゃった。
身体がまっくろだけど、ボクは暗いのが嫌いだから「しろ」って呼んでる。

「ねえ、外が騒がしいけど、何かあったの？」
「うむ、どうにも新たな王に対する不満がついに限界に達したようだな。“いっき”と呼ばれる暴動がおこっているようだぞ」
「ふーん……」

特に興味が湧く話題でもなかったからとりあえず聞き流す。
ネクターを独占し始めたのにはたしかに驚いたけど、それで暴動が起きるなんてみんな行動力があるんだな。

「しろはどう思う？」
「我輩はすでに主からネクターをもらっているからな。特に不自由はしてない」
「うーん……ボクも他のエンブリオと契約をする気もないしなぁ……」
「ふふん、そうであろう。他のエンブリオなど有象無象に過ぎぬ。我輩と契約できたことを誇りに思うとよいぞ」
「いや、もう儀式の準備とかするのめんどくさいだけだけど」
「むう……」

しょんぼりするしろを横目に朝ごはんの準備をする。昨日買ってきたチーズとパンで適当にすましちゃおう。
チーズを焼いている間に着替えて包帯を巻き直す。昨日も狩りで体中が傷だらけだ。
それにしてもすごい数の人だ。この街じゃ見たことない人もたくさんいる。
……ん？知らない人もたくさん？

「ねえしろ。もしかしてこれって、友だちをつくるすっごいチャンスなんじゃない？」
「どういうことだ？」
「ボクも一揆に参加するよ。同じ志をもつ者同士が集まれば、自然とそこには友情、努力、勝利が生まれるんだよ」
「ふむ、そうなのか」

しろはなるほどと頷いている。ボクも適当に言ってみただけで本当は竹やぶに落ちていた雑誌の受け売りだけど。
生まれて今まで友情とはかけ離れた生活を送ってきたボク。きっとこれは神様がくれたチャンスに違いない。

「とにかく、これできっとボクでも友だちがたくさんできるはずだ。しろ、協力してくれるよね？」
「主の命令とあらば、我輩も全力を尽くそう」
「ありがとうしろ。きっと友達100人作ってみせるよ」

グッと小さくガッツポーズをして意気込む。モチベーションを高めるにはガッツポーズが一番だと思う。
そうと決まれば早速行動だ。一揆と言うことは戦うんだし、武器の手入れと、それから薬と包帯と……
あれ？参加するのって何か手続きとかあるのかな？ハンコも必要？
ああ、緊張するとすぐお腹痛くなっちゃうしお腹の薬と……それから……

「そういえば主よ、友だちを作るのはよいが、主は人に話しかけれるのか？」

………あ。

「ど、どうしよう。急に人に話しかけるなんてボクにはレベルが高すぎるよ」

そう、何を隠そうボクは口下手で人見知りだ。おまけに表情を作るのも苦手とくれば、友情とはかけ離れた生活をしていても不思議じゃない。
この性格のおかげで今までずっと無口な何を考えてるかわからない不思議ちゃんとして生きてきたんだ。
と、とりあえずイメージトレーニングだ。話しかけるところを想像して……
最初はなんて言えばいいんだ？おはようございますが一番いいのかな。次は一揆に参加します？いや、参加するから集まるわけだし……ボクと一緒に頑張ろうとか言うキャラじゃないし。
もうグループとかできてたらどうしよう……学校じゃ余ったもの同士で集まったところにも入れずいつも先生と勉強してたし……
そ、そもそもパーティーとか組んだりするのかな？1人で戦うなんて怖いしめんどくさいし嫌だよ……

「しししししししろ、ボクはどうすればばばばばば」
「そう言うと思っていたぞ主よ。我輩に任せるがよい」
「ほ、本当に？」
「うむ、大船に乗ったつもりでいると良いぞ」

しろが自信満々に言い放つ。こんなに頼もしいしろは初めてだ。今ほどしろと契約してよかったと思ったことはなかった。
昨日の狩りでうさぎを逃してしまったことも許してあげよう。

「人に話しかけるのが苦手なら、元から話しかけなければ良いのだ」

頼むしろ。ボクは真面目なんだ。

「そのような不安な顔をするな。よいか、まずはこれをこうして……」


…………


こうしてしろにアドバイスを貰い、ボクは意気揚々と家を出た。
胸には大きく「友だち募集中」と書かれた看板がぶら下がっている。
友だち100人出来るといいな。