全てを失ったシエラは岩と砂の中に眠る故郷に別れを告げ旅に出る

だが、独裁者の支配するこの世界に安息の地などは求めれるはずもなかった

新境地にたどり着いたシエラの前に一人の男が立ちふさがる

欲望の焔に導びかれるまま、シエラは男に対して凶刃を振り下ろす


千夜一夜物語、第2夜『ラルフと呼ばれる男』

少女の焔が剛拳の男を焦がす、その幾時か前。
腕試しの場へ人らしき影が近づいていた。
視線を向ければ笑みを貼り付けた男。

多少距離を詰めた所でそう述べると、一礼し踵を返す。宣伝のようだが妙にあっさりしていたかもしれない。ラルフとは何度か顔をあわせていたらしく、目で追い払われていた。気になるなら情報はすぐにでも手に入るだろう。注意深ければ男の視線が一瞬だがシエラの肢体を嘗め回していたことに気づいたかもしれない。粗野な男達と似たような、濁った瞳で。

黒の礼服を纏った1人の青年が、周囲を見回しながら女性の方へと近付いていく。

そこまで言うと青年は一旦口を止め、少々考えるような仕草を取った。

今度は女性の持っている武器に着目したらしく、興味深そうに見つめ始める。

青年は女性の目を見つめながら穏やかそうな微笑を浮かべている。