「ここが、メルンテーゼね。なんだか懐かしい香りがするわね…」
天界に住む一人の天使が、羽を休めるように地上へと降り立った。
とはいっても、背中に携えた大きな羽や、頭に乗せた輪っかから辛うじて天使であることが分かる程度であり、その風貌は天使というには少々似つかわしくない。
「最近天界に篭りっきりで、全然地上界に降りてなかったから、体が鈍りっきりだわ…」
彼女は、なんとなく疲れた表情をしていた。

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世界は、いくつもの世界に分かれている。これはいわば地上界のことである。
これらの『分割世界』を統括するかたちで一つの『天界』が存在している。
天界には、数多くの天使たちが棲んでいるが、彼（彼女）たちの役目の一つは、これらの世界を監理することであった。
とはいえ、無数に存在する、分割された世界を一元的に監理することは難しいため、数人の天使ごとににグループを組み、各グループに一つの世界を割り当て、それぞれがそれぞれの世界を監理するかたちをとっていた。
グループの人数は、世界の大きさによっても異なるが、小さな世界では少なくて3人、大きな世界では2,30人となることもあるらしい。

メルンテーゼに降り立った一人の天使。その名前は『プライオーネ』と言う。
プライオーネも、とあるグループに所属し、そしてとある世界の監理を担当していた。
彼女は、そのグループの中では『ナンバー2』の立場である。
付け加えれば、メルンテーゼにも担当の天使グループはいるが、無論彼女の担当ではない。

『監理』と言っても、具体的に何をするのか？
それは、各グループの裁量に委ねられるところが大きく、『何をしなければならないか』は定められてはいない。
あまり干渉し過ぎないように…という暗黙のルールのようなものはあるが、運命を変えるような大きなジャッジメントを下してしまうこともあれば、ただ天界から地上を眺めているだけなこともある。
プライオーネのグループは、後者、言い換えれば放任主義のグループである。
天界が地上に深く干渉しすぎれば、世界の運命が大きく変わってしまうこともある。もしも定められた運命があるのであれば、可能な限り干渉しすぎないほうが良いのではないか…
しかし、不干渉を貫けば、何もしていないのと同じだと言われてしまう。天使の仕事は難しいものである…
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「ここに、いろんな世界から人々が集まってくると聞いたわ」
この世界、メルンテーゼでは、住人たちによる一揆が起こっていた。
だが、彼女はその一揆と言うものには、あまり興味がなかった。

「とは言ってもね…私一人じゃ、なにをすればいいのか分からないけれど。部長は一体どこに行ったのかしら？」
「部長」とは、彼女の所属するグループで一番偉い天使、すなわち『ナンバー1』である。そして、彼女はその次、『ナンバー2』の立場である。
この部長が割と適当な生き物らしく、ナンバー2の彼女は困っているらしい。
「天界本部に呼ばれたからって言ってどっか行ったっきり、帰ってこないし…いなくなるのはいつものことだけどさー」
一人で部長の愚痴をブツブツと呟いている。

彼女がこの世界に来たのは、とある問題の『手がかり』を掴むためであった。
問題とは、彼女の担当する世界で起こってしまった、とある重大な問題である。
その内容はさておき、どうして問題が起こってしまったのか？それを探しにこの世界に来たようである。
なぜわざわざメルンテーゼに来たかというと、プライオーネと仲が良い天使がメルンテーゼを担当しており、そこで一揆が起きており、色々な世界から精鋭が集まってくると言う話を聞いたため、せっかくだからとわざわざやってきたとかそれくらいの理由らしい。
彼女のグループはもともと放任主義であり、地上界にほとんど干渉していなかったので、単純に暇つぶしに来たとも言えなくはないが…

「とりあえず、ここで一揆とやらに参加してみたらいいのかしらね？それで何か手がかりがつかめるかは分からないけどね…
ぶっちゃけ、最近暇だし」

そして彼女は一揆に参加した。