２枚でわかる日記内容

どくにんじんの増え方
http://abcb.s314.xrea.com/Ikki/uploader/img/6.png
今日あったこと
http://abcb.s314.xrea.com/Ikki/uploader/img/8.png
-------------------------------------------------------------------------------------------------------

どくにんじんはいたるところに存在すると言われている。
そのルーツに関して、悪党がつくった歩行毒物の一種だとか、ある分割世界で生まれたどくにんじんが他の世界へ旅立って今日様々な場所で見られるようになったとも言われるし、空気や水や光それらによって育まれる植物と同様にありふれた“必ず存在すべきもの”であるからルーツなんて気にしても仕方ないなんて意見もある。

どくにんじんの外見は可変だ。それを指して手足のようなものが生えているという人がいれば、二足で歩くのを見たと驚く人もいるし、ただのくさったにんじんだと告げる人もいる。
真か偽か、そも有る無しを気にすることこそ無意義な“もの”なのだろう。

少年トリーは記憶喪失であるがその理由はくだらないものであるし、どくにんじんがエンブリオとして彼に付き纏う理由も面白みに欠ける。
いずれにせよすべてどちらでも良いことであり、教訓とか、得られるものとかそうした高尚ななにかは存在しない。
当人の目線に立ったって、今を楽しむことを知っているどくにんじんはルーツや外見に揺さぶられる芯をしてないから意味がない。どうでもよいことを気にするのはにんじんの仕事じゃないのである。


平坦な一本道をトリーとにんじん１本が歩いていた。若木くらいの大きさのぼうぼうの草むらが道を囲み、手入れのされてないツルは道にまで伸びて、撫でるように体に当たるのを気にもせず二人は黙々と進む。陰になった道は昼間でも薄暗い。

村を出て５日になる。目的の場所は前にも後ろにも一向に見えてこない。
草むらの木の実をひとつ千切り口に放り込む。甘酸っぱい味がする。

「なあにんじん、本当にこの道であってるのか」
「わかんない」

少年は見るからに不機嫌そうで、反面にんじんはにんまり笑いをしている。にんじんの表情は落書きのような模様のような曖昧なものなので、そうと見えるだけかもしれないが。

「地図持ちはおまえだろ」
「僕は地図を持ってたけどもうないもの。ご飯もお金もお手紙もなにもかも全部全部足が生えて旅に出ちゃった！」
「あのときか……ちぇっ」

４日くらい前のこと、ちょうど良い泉があったから水浴びをしたら岸に置いた荷物が消えていた。トリーはかんかんに怒り、にんじんはその時も今と同じにやにや笑いをしていた。
口内のベリーを吐き出して、またツルに手を伸ばしたがベリーは奥の方にあって届かない。

「トリー、危ないよ。畑の中に行かない方がいいよ！」
「畑？　どこにあるんだ」
「ここだよ」

一周ぐるりと見渡すが、左右に広がるのは林。前後に広がるのは地平線しか見えない道。トリーは首をかしげた。上にはやっぱり雲と太陽と鳥があるだけで畑なんて見あたらない。

「ここは巨人の畑だよ」

にんじんは腕を広げて左右の林に人差し指を向ける。えっへんと咳払いをして得意気な顔だ。

「これは作物、この道はあぜ道だよ。野良エンブリオがたくさん成長させて大地の恵みを育んでるんだ。管理してる人がいないから変なのがきっといるよ。だからにんじんおたべ！」
「へー！　なんでそんなことわかるんだ？」
「僕はにんじんだから畑のことならなんでもわかるよ！　すごいでしょ！」

むすっとしていたトリーの目がきらきらと輝き出す。にんじんは得意気になって無視されたことなんて気にもならず、饒舌に喋りだす。

「ここはもともと大棍畑でね、他にも竹拳とか魔斧とかいろんなものを生やしてたんだ。でも管理できる人がいなくなったから今は荒れ畑。強いベリーとベリー好きのエンブリオが魔斧も魔槌もみーんな、倒しちゃったってわけさ！」

こくこくとトリーは頷く。

「へー！！　その野良エンブリオに道を聞くことってできるのか？」
「できるけど必要ないよ、僕は畑のプロだもの！」
「じゃあさ、この道まっすぐ行くと曲がり道とかあるのか！？」
「もちろんあるよ、あぜ道だもの！　それにもう少し進めば畑も終わって街が見えるよ！」
「本当か！？　にんじん、おまえすごいな！　行くぞ！！」

返事を待たず、にんじんを掴んでトリーは駆け出した。道の終わりと、それから街に着くこと、そのふたつがトリーをわくわくさせた。