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聞いた時から予想していたけど、王様の政策は受け入れがたい物だったらしい。
この村でも不平不満が耳に届くし、レジスタンスが人を募集する看板も立てていた。
何でも、他の分割世界に声をかけてまで、本格的な抵抗を始めるとか。
私は額に浮かんだ汗を拭い、照りつける陽射しを遮りながら空を見る。
朝起きて、畑を耕し、水が足りなければ水を撒き、実った成果を収穫する。
ただそれだけの毎日に、エンブリオが絡む余地は殆ど無い。
新たに契約する予定も、必要も、そのつもりさえも同様に。
だからかな。
王様が変わるなんて大事件を経ても、昨日と同じ今日を過ごしているからこそ、確信を持って言える。
例えこの国が戦火に包まれても、村が、畑が無事な限り、私はこうして畑を耕す日々を過ごすのだろう。
漠然と、そんな結論を抱いたところに聞き慣れない声が届く。
……周囲を見回しても、誰も居ない。
空耳だろうと結論付けた所に、今度ははっきりと、それもフルネームを呼ばれたことを訝しみながら、声のした方へと目を向ける。
私の目の前、今し方耕したばかりの畑、その上にいきなり現れる紺のローブ。
その隙間から覗く赤い眼と一瞬目があって……にやついているのが、無性に腹立つ。
…………。
……。
なんか来た。
ふたりいっき。
〜第一更新:絶対一揆するんだもん!〜
そう、畑の上に漂う人影を一瞥して、溜息を零す。
最初は何してくれるんだと思ったけど、土の様子を見る感じ、踏み荒らされた感じはない。
多分、精神体とか、何かの魔法か、そういう類なんだろう。
……浮いても、私より小さい?
どう見てもこの子の方が幼……若く見える。
……話には聞いていたけど、本当に異世界へ要請を出してたんだなあ。
絡まれたら面倒だと思ってはいたけど、ここまで早く、しかも面倒くさい絡まれ方をするのは想定外だよ……。
この子、どんな世界で生まれたんだろう。
私、一度も意思確認されてないんだけどなあ……。
……要請に乗り気だけど、身体を送り込めなくて
仕方がないから適当にその辺の現地民をそそのかせばいいや、と開き直った
やる気だけが空回りした、ダメな幼女、か。
……要請した人、怒るんじゃないかなぁ。
……余計なこと言っちゃったなあ。
明らかに態度変わってるし、気を使われると疲れるんだけど……しかもこんな子供に……。
……別に、気にしないんだけどなあ。
それより、どう見ても諦めた様子がない所が困りものだよ……私に拘る理由なんて、無いと思うんだけどなあ。
え、なんで勝ち誇った顔してるの、この子。
もふっ、と妙な音がした。
……指を鳴らすなら、その分厚い手袋は取った方がいいと思うんだ。
そんなことを考えていると、私の手元にスクロールが一つ落ちてくる。
『ラルフをタコ殴りにし隊:Eno.1 フィリアとアナスタシア』
なんでこんな物を持ってるの、この子。
……皆が言うには、整理券を配りだしたのって早朝……ううん、真夜中だったとか……。
……行き当たりばったりなタイプに見えたけど……思ってるより入念に準備してたのかなぁ……ん?
むしろ、私に気を使って欲しかったな……なんで私の名前で整理券を取ってるんだろう……これ取ったの私と会う前だよね?
……目、つけられてたのかな……よりにもよってこんな面倒くさそうなタイプの子に……嗚呼……。
ここまで用意されてると……この子だけの問題じゃなくなるよね。
全部無視することもできるけど、アナの言う通り……一人目から欠席とか、真面目に一揆する人からすれば幸先が悪いのは確かだし。
いくら一揆そのものがどうでもいいとはいえ、やる気がある人の出鼻を挫くのは……心苦しい。
……まあ、できるなら何でもいいや。
そう、頭を抱えて蹲ったアナを一瞥してから、農具小屋へと歩き出す。
流石に鍬で戦う気にはならないけど、ううん……竹槍くらいなら用意できるかな?
思わず溜息を零しながら、もう一度、アナに託された整理券に目を向ければ、嫌になるほど大きく書かれた『Eno.1』
……貧乏くじにも、程がある。