「……レイスさん。お話というのは？」
私は彼らと別れて彼女へ打ち明ける。

「お嬢様、私はおそらく長くは生きられません。既にいくつかの器官が動かず、ある程度自前の施術をしたところで意味は無かったことから、エンブリオに由来する蝕みと考えられます」
ですので、と続ける前に一口だけ古いウィスキーを含む。
「もし今後何かしらの形で私が自らを制御出来なくなった場合、お嬢様が私を殺して下さい」
瞬きせず見上げるマルムベリィを覗き込み、口元を笑みの形に作っておく。
「この地を去ることになれば、避けては通れないでしょう。お嬢様、あなたが決めて下さい」

「わかりましたわ」
≪疾く駆けよ≫
≪蒼き馬≫

閃光が視界を奪う。幻聴が「次が何を詠唱しているのか」を聞き取れなくさせてゆくが、自分に何が起こっているかぐらいは自ら判断がつく。
想像した通りに数カ所を縫いとめられる。激痛は既に幾日か前から覚えすらしていない。なるほど、こいつは良い判断だったかも知れない、この聖女にとっては。

痛みも感覚もない場所は、こんな風だったか。

**奇妙な形のクリスタルを手渡す**

**首元を指し示す。同じものを付けている**

一面の青空。

荷物から小さな巾着袋を出す。中には親指の爪ほどの大きさのガラス玉…
透かして見ると、黄昏時の、夜を包含する空のような、朱と蒼の光を返す。

いたずらっぽく笑って、レイスに手渡した。

…護れたらよかったんですけど…とつぶやきかけて飲み込む。