よんじゅうさんにちめ。

何とか襲撃してきた敵を倒す事はできました。
でも襲ってきた敵の内2匹は以前に苦汁を飲まされたモグラ相手だったので、
使ってはいけないとアラヤちゃんに言われてた瘴気を咄嗟に少しだけ使ってしまいました。
・・・あの時の様な地面からの突き上げ攻撃が怖かったのです。

瘴気によってのこのよく分からない寂しさを落ち着かせようと私は呼吸を揃えていると、
突然背後から伸びてきた黒い触手の様な物が体に巻きついてきます。

戦闘後で気も緩んでいて、それで急な事だったので私はどうしようも出来ずにそのまま地面から吊るし上げられました。
一体どこからとその影の出所を視線で追っていくと、その影の出所はなんとアラヤちゃんでした。

私はその時アラヤちゃんの無表情だけど瞳の奥に凄い怒りが見えて凄く動揺してしまいました。
そして無表情のアラヤちゃんが吊るされてる私に淡々と声を掛けてきます。

影にギリギリと体を強く締め上げられながら、アラヤちゃんは使わないでと言った筈の瘴気を私がまた使った事に腹を立てていました。

いつも怒る事なんてしなかったアラヤちゃん。
アラヤちゃんを守る為といって瘴気を使っただけでここまで怒るなんて思いもしませんでした。

私は必死に謝ろうと震えながら声を出そうとしますが、巻きついた影が体が軋む程に強く締め付けられて上手く声を出す事ができません。
それでも締め付けを止めない無表情のアラヤちゃんの見て、私は締め付けられる痛みと恐怖を感じてしまいます。

そしてそれ以上に…

地味に乙女の尊厳がピンチでした。

私が恐怖心と羞恥心の瀬戸際で涙目になりながら葛藤してると、ふと巻きつく影が緩んでそのまま地面に下ろされます。
影から解放された私はそのままその場にへたり込んで動けなくなります。

へたり込んで涙目の私にアラヤちゃんが「手荒にしてごめんなさい」と謝罪をしてきました。
そしてその次に「ソウハの足りない所はアラヤが補ってあげる。」と少し照れた顔を浮かべてアラヤちゃんが言いました。

私はアラヤちゃんのその言葉を聞いて一瞬きょとんとした後。
その事を詳しくアラヤちゃんに聞こうとするもアラヤちゃんは私の言葉を強引に遮りながら一方的に話を続けていきます。
アラヤちゃんから恥ずかしいからこれ以上聞くなという雰囲気を感じて、色々聞いたり謝りたいけど一先ず大人しくしておく事にしました。

アラヤちゃんとの会話を続けていると何か魔力を込めれる様な物は持ってないかと聞かれて、
そういえば荷物の中に水属性系の魔力を込められそうな蒼い水晶があったのを思い出して、それをアラヤちゃんに手渡します。

水晶を手渡すとアラヤちゃんは「先に寝てていいからね」と言って、それを持ってその場を離れていきます。

一人で離れるアラヤちゃんの事が心配だけど、先程の事もあって少しだけアラヤちゃんに近寄り難かったりします。
一応アラヤちゃんがどこへ向かったのか探査魔術で確かめると、近くにある小川の岸辺に居るようでした。

心配だけど邪魔はしたくないですし今日は言われた通りに大人しく寝てようと
荷物袋から下着と毛布を取り出し、少し濡らした下着を履き替えた後に毛布に包まります。

思い返しては暫くぐずぐずとしていると、徐々に眠気が出てきてその内に私は眠りについてました。
そうして色々大変だった一日は終わりを告げました。

　＊　＊

次の日の朝。
目が覚めて毛布から出るとまだアラヤちゃんの姿はありませんでした。

心配なのと何をしてるのか気になるのもあるけど、昨日今日の事でまだ若干気負いしてる感じでした。

結局の所、約束を破ったのは私の方なのですから、アラヤちゃんに咎められても然るべき。
本当ならあの時点でアラヤちゃんに愛想尽かされて捨てられても仕方ないと思ってました。
でもアラヤちゃんはそんな事をせずに私の事を考えてくれてました。
それなのに私ときたら…

そう呟きながら朝食の準備をしようと振り向いた時でした。
高速接近する反応が４つ・・・真っ直ぐとこちらに向かってくるのを察知して咄嗟に術式を展開。
ガササッと草叢を掻き分けながら飛び出したのは以前に見た事のあるゴリラっぽい魔獣に狼男。

飛び出してきたと同時に私に向かって攻撃を仕掛けてきました。

術式を発動させて何とか攻撃を相殺します。
どうやらこの魔獣達は今までの食糧を狙っていた魔獣達と目的が違う様です。
フッーフッー！と息を荒げて、明らかに目が血走って・・・

察した私は背筋がゾゾッと悪寒が走りました。
こいつらだけには負けてはいけない。とにかく徹底的に倒さないといけない・・・そう本能的に感じました。

暫く睨み合いでの牽制が続いていると、戦闘音を聞きつけてアラヤちゃんが慌てて戻ってきてくれました。
そして私の隣に着くとアラヤちゃんが「これ、アラヤの魔力が篭ってるから。」と何かを手渡してくれます。

手渡されたのは少し変わった指だけ覆う感じのグローブのような物でした。
指先には加工された小さな青い水晶がついており、何だかそれが肉球の様にも見えます。
私は急いで渡されたグローブを手にはめ込むと、グローブ全体から凄い魔力の力を感じました。

感謝の言葉と相手の目的を簡単に告げて、再び術式を展開して魔物達の方に向き合います。
アラヤちゃんのお膳立てもあって負ける気も毛頭しないし、絶対に負けたらいけないと構える私。
魔物達は狂った雄叫びを揚げながら、生存競争の戦いに入るのでした。