『行き当たりばったりな冒険　〜ツルギの場合〜』



　とある世界、GC2077.12.24.17:50、とある惑星にて——


　月日は流れた。
　少女との出会いにより、人間的な感情を学び、ある程度は人間の感情を
理解し、自身の思考から感情を使うようになっていた。



　デートの連絡は来たものの、返信は返さず、作戦への参加を選んだ。
　信じたくなかった。ロボット故に結論は早期に出ていた。しかし、
感情に任せるのならば、それを受け入れることが出来なかった。
デートを放棄せず、指定の場所で夢を見ていた方がましだっただろう。
真実を突きつけられることの残酷さに比べれば、少女……恐らく
少女の複製と偽りのデートを楽しむ方が精神的衝撃は少なかった。
それが、偽りの少女であったとしてても。



　薄暗い部屋だった。部屋には機材と淡い緑に発光する液体が入った
大きな硝子の筒が複数並んでいる。何かしらの研究設備のようだ。
更に奧は床に大きな穴が開いていた。階下からの力で開けられたようだ。
穴の中を覗くと、階下が見えた。薄暗い部屋だ。機材やパイプが見える中、
一際目立つのが、床に四角くくり抜かれた水槽だ。中は橙色のどろりとした
液体状のものが煮えたぎっていた。通りでこの周辺は熱を感じる筈だ。
ロボット故に接近しても問題はないが、人工的に作られた皮膚は長時間の
接近に耐えられそうにない。人工的な汗が流れた。
　引き返して、硝子の筒を調べようとした時だ。
「ミライ、デートの約束をしたのに、来ちゃったんだ」
　聞き覚えのある少女の声。認めたくない真実が確定した。
　この場に似つかわしくない人物が物陰から現れた。着飾った少女だ。
プラチナブロンドの髪、紫水晶の色の瞳、色白の肌、黒いドレスの少女。
少女の肩には、前にプレゼントした白銀のきゅいが乗っている。
「すまない。今回の作戦は抜けられそうになかった」
　右腕のカバーをスライドさせる。
「……お嬢さんにはとても感謝している。お嬢さんのお陰で、俺は人間の
感情を理解出来るようになった」
　右腕に仕組まれている刃が姿を現す。
「お嬢さんとのデートを楽しみにしていたが、君が敵であると確定した今、
デートは出来ない」
　戦闘に備えて右腕の刃を出したが、刃を少女に向けることはしなかった。
向けたくない。少女と戦いたくなかった。
「俺も君の力になる。馬鹿なことはやめるんだ」
　無駄かも知れない。だが、戦いを回避出来るなら、回避したかった。