こんな風に彼女を抱きしめるのは、二度目だった。
でも今回は、加減がわからなかった。それでも腕の力を緩めることはできなかった。

小さな体。
この体で色んなものを背負っていたのだろう。
それがどれだけの重荷だったのか、アールにはもちろんわからなかった。
自分が抱えてやれるものもあったのだろうか。

わずか、2ヶ月。
それでもチセを思うには十分長い旅だった。

「………そう。寂しかったし、不安だった」

肩を掴んだまま、そっと体を離す。
薄暗い部屋で、金色の目が濡れたように光った。

「もしかしたら、他の奴でも、それは埋められたかもしれない」
わずかに逡巡して、歯切れ悪くそうつぶやく。
「でも今は、チセでよかったと思う。チセじゃなきゃ、ダメだったと思う……ほら、俺、こういう奴だからさ…」

うまく言葉がまとまらない。
唇を噛み締めて俯いたところで、「一緒に寝ませんか」と、チセの言葉が耳に届く。
「え、あ………？でも、…えっと」
顔が熱を持っていくのがわかる。
「……チセが、いいなら……」

***

眠れるわけがなかった。

それはそうだ。考えなくてもわかっていた。
小さな一人用のベッドで二人。
彼女の息遣い、体温、心音まで聴こえてきそうな距離。

時々、旅の思い出を語る声や、小さな笑い声が聞こえることもあった。故郷の話も。

「…………」
その間、たまに訪れる沈黙に、余計な考えが頭をよぎっては、慌ててかき消そうと目をぎゅっと瞑る。

「アールさん」

名前とともに、こつんと額を合わせられ、ふっと力が抜ける。
「………」
チセの口元に目が行く。
「アールさん？」

全身が心臓になってしまったように、バクバクと大きく脈を打つ。体の内側が乾いてく感覚。
首や背中を汗が流れて行くのがはっきりわかった。

「……………………チセ」

光る金色の瞳が、チセの顔をまっすぐ見下ろす。

(サラミス。)


「…ごめん」


こんな風に触れるのは初めてだった。
加減がわからなかった。
それでも、体の熱を抑えることはできなかった。