長期に渉る激戦の末。魔物二匹は追い払う事が出来ました。

でも最後の一匹を追い払う途中で、私の術式が魔力許容の限界を超えてオーバーフローが起ってしまい、
その隙を突かれて、最後の一匹は干し蛇肉をパクッと咥えて凄い勢いで持ち去られてしまいました。

私は折角作っていた干し蛇肉を盗られたというショックより、こっちの方がショックとその場で頭を抱えて悩みこんでしまいます。

というのも、今使っている術式は少し前に弄って強化したばかりの改良型術式。
魔力の入出力や許容限界量も今まで使っていた術式の数倍はあった筈・・・。
なのに過剰魔力でオーバーフローを起こすなんて私にとってはかなり由々しき事態です。

一度オーバーフローが起ってしまうと、術式内の過剰魔力を排出しない限り
特殊なアプローチからの展開/発動による術式以外は術式の再展開/再発動が出来なくなってしまいます。
この状態を銃で例えると弾がジャムってる様な状態です。・・・銃って何だろう？

過剰魔力を排出するのに一度、魔術回路を停止させて再起動させる必要があります。
つまりこの再起動させる間は私は全く魔術が使えない完全な無防備状態になってしまうのです。

私の様子に困惑してるアラヤちゃんを余所に、うーんうーんとあれこれ対策用の術式を頭の中で組み立てていきます。
こんな醜態、アラヤちゃんの前では二度と見せたくないのです。


　＊　＊


一晩頑張って頻繁に扱う術式の改善を図った私は若干寝不足ながらも先へ進む為にアラヤちゃんと一緒に足を歩めます。

許容限界量の改良には時間が足りなかったので、一先ず入出力の蛇口を大きくして術式自体を小型から大型化させました。
大型術式なら魔力の消費も多くなるので、これで多分オーバーフローなんて起こす事は無い・・・と願いたいです。

やや心配事は残りますけど、昨日の様に醜態を晒してアラヤちゃんに負担をかけるのだけは回避しないと・・・。
心の中で頑張らないとと意気込んでいると、隣に居たアラヤちゃんが声をかけてきます。
どうやら昨日の戦いから私の様子がおかしいので心配して声をかけてくれた様です。

・・・心配かけない様に頑張ろうと意気込んだ側から心配をかけてる事に心が痛い。
私はアラヤちゃんに「大丈夫、心配してくれてありがとう」と笑顔で答えてアラヤちゃんの手を握ります。

手を握られた事でアラヤちゃんは少し恥ずかしそうにしつつも、
その手を振り払おうとはせず手を繋いだまま先への道を仲良く歩んでいきます。

暫く道なりを歩いてると、周囲の風景が変化し始めて、流れる空気に冷気を感じるようになりました。
足元の水が流れていた場所には氷が張っていて、道の先の方から非常に強い氷の魔力を感じます。

アラヤちゃんもこのただならぬ雰囲気からいつでも戦えるように術式を展開して警戒態勢を取っています。
私もそれに続いて再調整した新術式・・・をいつでも展開できるようにして慎重に足を進めます。

丁度道を曲がった先の空いた場所が見え、そこに三匹の魔物が佇んでました。
内二匹は昨日干し蛇肉を盗りに来た魔物と同じ種類。
そして残り一匹の方は見た事の無い種類の魔物・・・いいえ、魔獣でした。

私と同じ氷の魔力をあの魔獣が周囲に放出してこの氷の世界を作り出している様です。

流石にあれを相手にするのは厳しいと思った私はアラヤちゃんの手を引いて来た道を戻ろうとします。
しかし道を戻ろうと振り向いた先には大きな氷の壁が出来ていて来た道を完全に塞がれていました。

・・・どうやらあの魔獣には私達の事は筒抜けの様です。
逃げ道を塞がれた私達は、あの魔獣を倒さないとここからは出れそうに無いみたいです。

魔獣達がこちらへゆっくり向かってくるのを見て、私はアラヤちゃんの前へ出でると新たな術式を展開し始めます。