■水辺：星屑の小川にて

「道案内…今回はする方、か」
　待ち合わせ場所にて、ぼんやりと周囲を見やる。
　それらしき人の姿はまだ見えないが、どころか、案内すべきはずのサルの姿も見えないが、…場所を間違ってはいないだろう、たぶん。

　先の例に漏れず、挨拶を終わらせていたサルに聞いたところ、同行者とは、妖精？をつれた長耳の娘と、狐の特徴を持った娘だそうだ。
　たくさんの妖精に囲まれているなどは、まるで夢のような様子だろう。
　狐の特徴ということは尻尾は欠かせない、ふかふかとした毛皮がどれくらいの人間を魅了してきたかは、狩猟の歴史が物語る。
　つまりのところ、どちらも愛くるしいに違いない。
「うむ、楽しみやな」
　暇潰しがてら手にしていた修理中の人形、両腕を万歳させてみる。
　それは楽しい様子の人形に見えるだろう。

　私に、どれだけのことができるだろうか。
　形は直せる。
　それだけでは、足りない。
　欠けているのは、損なわれているのは、見目ではない。
　人形の本質とは、人の身代わり、成り代わりである。
　私は、この娘を、無事な姿で、あの夫婦に返してやらねばならない。
「私がサクラであれば、なぁ…」
　左手を空に掲げ、透かして眺める。
　当たり前に、向こう側は見えない。
　天にいるとも、限らないし。


「サクロの。欠伸しとる場合とちゃう」
「んぁ？」
　視線を落とせば、サルの姿。
　不快か、不満か、よくない表情。
　…今の私は特にサボってはなかったよな、ちゃんと遅れんように来たし。うむ。
「森に向かったお嬢さん方が、賞金首と鉢合わせしたらしい」
「ほぅ。…。」
「…。」
「…気をつけやー言うたばかりやのに…」
「ふらぐ、って知っとる？」
「知らんことにしとく」
　一旦しゃがみ込んだ姿勢、返事しながら立ち上がる。

「まぁ、しゃーないな」
「しゃあないけども」
　なるほど、よくない表情になるわけだ。
「今から駆けつけるっちゅーわけにもいかん。さっさと片付けて、屋敷帰って、労う準備でもするとしよか」
「労いて、どっちの意味で」
「…垂れ幕作るわけでなし！！」
　少々、言い訳じみた響きになるのも、仕方がないことだろう。
「準備て、何する気なん」
「とりあえず…、…おやつ？」
「自分が食べたいだけやん」
　呆れた顔で言い返される。
「団子にしよう、月見用にて頼んだんがあるはずやから。何味がエエかなぁ、芋はそろそろ出回っとるやろか、帰りに市場寄れるかな、なぁ、サル、懐にナンボある？」
「速攻で目的を忘れてへんやろね？」
「もちろんや。皆が喜んでくれりゃ、私はとても嬉しい」
　にっこりと返せば、溜め息が返って来る。

　実用にしろ遊戯にしろ儀式にしろ。
　人形の目的とは、他者の慰めになることであるのだから。

敵意の無い右手を止める様子は無く、紗智はされるがままにしている。