古い記憶というものは。

保存されている間に段々と書き換えられていくものなのだと、
いつだかに、聞いたことがあった気がする。

（——いつか）

このまま「ここ」に、居続けることになれば。

（——いつか、あの真っ白な場所には、綺麗な思い出しか残らなくなるのかしら）










前を行く二つの人影を、見遣る。

何を考えているのかどうにも読めない青年と
何も考えていなさそうな少女。

（月蝕……幽、と、飴李と、言ったっけ）

ふとしたことから行動をともにすることになったのは、構わない。
一人で動き続けることにも限度はあるだろうから、それは構わない、のだが。

（……………………）


困っていた。
本人に自覚があるかどうかはさて置き、確かに少女は困っていた。
あるいは、困惑していたと言っても、いい。

戦うことだけを教わり、慣れ親しんできた経緯を思えば、
ある意味、それは当然のことではあったのだが。


（…………なんだか、落ち着かない）


そっと前方から目を逸らす少女を見守るように、
先刻名をもらった白い焔がくるり、空中で円を描いた。

少女はそれだけを告げると、静かに視線を逸らす。