——過去を、みる。

『駄目だ、それじゃ姿勢が安定していない。もっと腰を落として』

私が。

『そう、そのままだ。……銃の扱いにも随分慣れてきたね、——zehn？』

まだ、名前を持たない頃の、記憶。





あれは、果たしてなんなのだろう。

目覚めると同時、霧のようにそれは形を崩して逃げていく。
何を見ていたのかなんてことはすぐに曖昧になって、消えて。
ただほんの少しの懐かしさだけが、残る。


（今日は、どう、しよう）

壁の無い生活には、まだ慣れない。
日課だった訓練は抜くと落ち着かなくて、記憶を準えて行った。
正しいかなんて、知らない。
違っていたとしても、指摘するような人は、もうここには居ない。

（……さみしい？）

不意に浮かび上がった単語を、すぐさま打ち消す。
施設には沢山の人が居たけれど、誰もが独りだった。
独りでなければならなかった。
だから今更、そんな感情を覚える理由なんて、ない。

ない、筈で——

——思考が止まったのは、背に触れた、温もりの所為。

「いつから、…………」

目が合えば「それ」は小さく鳴き声を上げ、私の腕の中に収まる。
見上げてくる視線が大丈夫だと言っているようで。

知らず、口元が緩んだ。





「……あなたにも、名前が必要ね」

何がいいだろう、と限られた自分の知識を手繰る。
首を傾げられた辺り、向こうは理解していないのかもしれないけど。

少し、楽しくなってきた。


今日の訓練は、これ以上進みそうに無い。