太陽が無駄に気合を入れている。そう思うほどの暑さと光だった。
何もかもが眩しいらしく目を細めているコノエの腕を女王が引く。すぐに微笑み、その腕に凭れさせながら歩き出した。
海辺でありながら纏わりつくような湿気はほとんどなく心地良い風が吹き抜ける。
泳ぐには邪魔にしかならないフリルが気にならないほど女王は気分が良かった。コノエの髪も気持ちよさげに踊っている。

「似合っています、水着」
「そう？　だいぶ可愛らしいデザインだと思うけれど」
「それが良いんです」

女王にとって『海』というのは水着を選んで身につけて、海岸に来てしまえばほぼ終わりだ。
一般的な女性ならば恋人と水着を選ぶことが八割、シチュエーションに合わせての披露で一割九分、残りがどう過ごすか。
コノエは女王のそういった考え方を百も承知していた。特に目的も無い散策にこの先数時間を費やすことになることも。
とはいえ、彼も自分の見立てた水着を着た女性を連れて歩くのは悪い気はしない。むしろ喜ばしい状況である。
可愛らしい形の貝殻を拾い上げながら歩き、人の少ない隅に陣取り膝まで浸かって水を掛け合う。
砂を円形に掘り、中に座って中心に山を作る。故郷ではできなかった無意味で無意味で楽しい遊びを満喫した。

「やっぱり泳がないと。せっかくの海だし怒られないんだもの」
「言うと思っていました。折角ですから競争しましょう」

魔術で沖に目印を立て、二人はそこまで全力で泳いだ。互いに手加減なしの勝負がコノエの勝利に終わったのは順当だろう。
女王はゴールの勢いのまま先に待つ勝者に抱きつきそのまま沈んだ。呼吸など不要の人外は、海面<そら>を見ながら落ちていく。
海は人を開放的な気分にさせる。水底で交わされた笑顔と言葉は泡になって消えた。



「あぁ、遊んだ。久しぶりに遊んだ感じがするわ」
「そうですね。——はい、あーん」
「んー、あむ。…………うん。次は飲み物も欲しいの」
「はい」

（プロフ絵の線画を渡したら天使が塗ってくれたので）





　　　　　　　　　　　　　　　「肌を晒さないなんて言われてるけれど、別にそんなことないのよ？
　　　　　　　　　　　　　　　　着替えるのが面倒なの」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　———— 服屋にて




変調はすぐにやってきた。簡易天幕を張り柔らかいシーツを何枚も重ねた上に仰向けで寝転がる。
コノエはすぐ横で両膝をつき私を見下ろしていた。手を伸ばし、ドレスを慣れた手つきで寛げる。
どこに何が起こるのかわからない以上、服でぴったりと覆われている箇所があるのは良くない。
空腹を覚える。空気の匂いが鼻につく。髪が引っ張られるような、痒みに似た感覚。
放っておけば治まるようなそれは段々と強まり、皮膚が引き攣れて僅かな痛みを呼んだ。
でもそれは一瞬で、過ぎ去った後には謎の解放感が齎された。

頭に手をやって確認する。当たるのはとても心地よい、いつまでも触っていたいと思える柔らかな感触。
狼の耳。極上の手触りの毛皮を持った割と大きな耳は間違いなく私の一部だった。
もっとも、出し入れ自由だから大した変化ではないけれど。
コノエの大きな手が頭をそっと撫でる。くすぐったくて、ひくんと耳が動いたものの暖かくて気持ちが良い。
目を閉じてその感触を追っていると手が止まった。目を開けると片手で顔を覆いあらぬ方向を向いたコノエが居る。
でもそれは一瞬で、くしゃみを我慢していましたと彼は笑った。

戦場の最前線に居た人間を庭師にする。どう聞いても左遷のはずだ。しかしブランチマンは気にしていないようだった。
むしろ庭ガールとかいう少女（ガールならば、多分少女で合っているはず）を侍らせてご満悦に見える。

コノエは決して鈍くない。付き合いも、随分と長い。彼は敏感に私の考えを察してくれた。

食べたい。

明日は海に行くんでしょう？　ほどほどに、という言葉は上辺だけだったように思う。

目を閉じ眉を八の字に下げつつも、お仕置きに抵抗する様子はない。

指先で首輪についた徽章に触れる

しょんぼりと項垂れている。