「一揆生活　׆日目」

　実に愉しい一日だった。キラーウルフを入手するため平原を訪れた俺達は当初の目的通り、キラーウルフに出会うことができた。そのまま討伐後、問題なくエンブリオに出来たのは運が良かったのか、さてはて。契約したところ、情報通り以前とは見違えるほどの力を得ることができた。
　これで分かることは——この世界の強さとは、やはりエンブリオが中心とされている。という事だ。つまりは俺がこの世界で本領を発揮するためにはエンブリオとの契約がキーとなる。契約者本人の力量も大事なのだろうが、それでもエンブリオの力を引き出すのが優先されているというべきか、これが無ければ「契約者/モンスター」相手に勝つことは出来ないだろう。広義で言えば俺も「モンスター」達と同じ枠に入ると思うのだが……。やはり、世界の修正というものなのだろうか？世界における「ドラゴン」の定義によって大分能力が左右されてしまうのはどうにかならないものかと思うが、慣れればこれも愉快なモノだ。行く先々で弱者となれる体験はそうそうないからなぁ。まぁ、弱者であるのは少しの間だけだ。慣れれば徐々に力は取り戻せて行けるみたいだしな。
　
　“この世界ではエンブリオがキー”
　
　これが確信できただけでも大分収穫はあったと言える。となれば今後は積極的にエンブリオと契約していくか、それとも今いるエンブリオを強化していくか……か。とりあえずはキラーウルフの力の源を鍛えつつ、紅月とルークに経験を積ませていくか。
　
　そうそう、キラーウルフのヤツだが。あいつは基本的に恒常的な俺の身体能力のバフの為にもアイツの意志の為にも俺の体内に隠れ潜んでもらっている。紅月とルークに絡まれどうすればいいのか分からなく狼狽えているところを見るに、体内に入りたがるのはそういうことなんだろう、互いにWin-Winな関係を築けほっとした。
　
　つらつらとキラーウルフについて書いたが今回、愉しかったのがもう一つ。それは練習試合での思わぬ再戦だった。あのメイドは良い殺意をしていた。負けたのが悔しかったのか、それとも——吸血鬼に負けたのが悔しかったのかは分からないが。アイツからも一種独特な匂いは漂っていたので分かる、吸血鬼に連なる何か、だとは。全く、この世界に来てからというモノ本当に吸血鬼とは縁があるな。見るたびに愚妹がチラつくので少し落ち着かなくなることすらあるぞ、まったく。
　くはは、いいや、アイツは「俺に対する」殺意で満ちていたなァ。これだから止められんのだ、勝負とは、戦いとは——殺し合いは。バケモノを殺すのは何時だって人間だ、そうでなくてはならない。吸血鬼の匂いはするが、濃くはない。凡そハーフ、という所か？ならば十分に資格はあるだろう、くくく。英雄譚になるかどうかは気になるが——まぁ、それは王に向けて貰うとしよう。俺達の目的は一揆なのだからなァ。ああ、実に残念でならない。

　ぽつり、と。聞こえるか聞こえないか程度の声で、零すように呟く。

　目を爛々と輝かせ、身を乗り出して問いかけるミラルカ。
　しかしそんな様子が「やり過ぎ」だと思ったのか、慌てて取り繕う。

どこからか、ツッコミが聞こえるが多分気のせいだろ…

と、少女の騒がしい自己紹介は、この後自分の家の歴史からはじまり、ご先祖様の武勇伝や
鉄の指揮棒の由来など、長々と続くのであった…

改めての丁寧な申し出と、そこに込められた感情に応え、

ぐりは通信札を受け取ると、谷間に収納する。

いきなり通信符が反応する──

続いてゴンゴンと言う打撃音。
応答すると、一拍おいて向こうから反応が返ってくる。

捲し立てたあと、薙疾は言葉を続ける。

↑通信符を眺めつつ

ぽむ

にこっ

突然の大声にアズマは一瞬ピクリと身構える。どうやらタゴサクが通信符で通信をしてきたようだ。
……それにしても声がでかい

どうやら以前彼に教えた竹林へのお誘いらしい。
…暇潰しがてら覗いてみるのもいいかもな。
アズマは適当に返答をしつつそうぼんやりと考えていた。