6.


　それでもピアは、翌日もその次の日も同じ場所の同じ木陰で佇んでいて、ポポロたちの設営を退屈そうに眺めていた。
　自分は一体何をしているんだろうという自覚は、はじめからある。
　夏祭りとやらに参加する気がないなら、そもそも会場にこなければいい。実際タンポポ荘の住人たちの中には祭りなど知るものかと見向きもしない者たちだっている。ピアもそうすればいいのだ。
　では自分は、皆と一緒に祭りに参加したいのだろうか。
　そうかもしれない。
　が、現実にはピアは一人、この場所にいる。
　夏祭りの会場というだけあって日陰にいてもなお暑い。それなのに汗ひとつかいていないのは己が感情の希薄さの具現に違いなく、生ぬるく不快な風が懐を吹き抜けていき、顔を上げれば青葉の隙間からこぼれる日差しに思わず目を細め、そのまま視線を屋台の方へと向ける。設営はまだまだかかりそうだった。
　つまり自分は、参加したくないと同時に参加したいのだろう。
　一見矛盾しているようにも見えるこの内面は、しかし誰もが持ち得るものである。
　感情というやつは、例え相反していようが同居することができるのだ。
　好きだからと言って嫌いな面がひとつもないというほうが珍しいし、満たされてるが故の寂しさや、嬉しいからこそ悲しいという状態は確かにある。しかもそれは、割と頻繁に。
　だから今の自分は、六対四ぐらいの割合で、参加したくなくて参加したいのだろう。
　ピアの口角がぴくりと動いた。
　こんな言い訳じみたことを考えるなんてどうかしている。それというのも、ここ数日の出来事が原因であることは間違いあるまい。
　断っておくが、ピアから何かをしたわけではない。
　ピアはただ立木に身を寄せて、遠くからタンポポ荘の住人たちが働く様を眺めていただけだ。
　ただそれを、放っておかない連中がいたから。
　自分がおかしくなっているのは、そんなお人好しどものせいに決まっていた。

　　　＊

　ここ数日を遡る。

　まずは、フェアリーとアニマのエンブリオ。
　しゃべることのできない二匹は、身ぶり手ぶりで何かを伝えようとしてくる。

　目の高さで飛び回っているフェアリーは少したれ目の気弱な性格で、大きな音がするとすぐに動転してそこらじゅうを無茶苦茶な軌道で飛ぶという癖がある。ポポロとは水と油のような関係で、ポポロがはしゃいでいるとフェアリーはすぐにピアの背後に隠れ、それがまた余計にポポロを騒がしくさせる。そんなやりとりを、もう何度見てきたか。

　足首を小突いてくるアニマは子ライオンらしいが、しかし誰がどう見ても猫にしか見えない。言葉がわかるのか、猫呼ばわりすると本気で噛みついてくる。プライドが高く怒りっぽい。実を言えばピアとは契約関係になく、捨てられたのかはぐれたのか、本来の契約者は未だに見当たらない。そのため成長させることができないが、放っておくこともできず連れ回すことにしている。

　ピアがそう言うと、フェアリーもアニマも一歩分の距離をとってから、じっとピアのことを見つめる。
　向こうだけがこちらの言葉をわかっているのは卑怯だな、と少しだけ思った。

　言葉を交わさなくても、確かな逡巡がそこにあった。
　程なくしてフェアリーがアニマの背中に飛び乗り、アニマがくるりと背を向けて、明るい日の下へと走り去っていった。
　二匹の後ろ姿を見送る。
　不意に、安堵とも落胆ともつかない、短くて細い息が出た。



　そして次は、タンポポ荘の住人たち。
　これは本当に不思議でならない。たいして親しくもないのに、まともに会話をしたこともほとんどないはずなのに。
　あまりこういう言い方は好きではないが「世の中いろんな奴がいる」、そういうことなんだろう。
　それは例えば、こんな奴だ。

　警戒心の欠片もない無邪気な声に顔を上げてみれば、そこにはずいぶんと目立つ服装をした女がいた。
　見覚えがある。巨大な異形に「姫」とか呼ばれていた奴だ。
　視線がぶつかる。その見た目や背丈は若い娘といった感じだが、態度や気配から伝わってくるのはまるで幼子のようだ。今ピアに投げかけた言葉も、嫌味などではなく本心からくるものだろう。

　そう言って、女はずかずかと立木の陰に入ってきて、ピアのすぐ隣に並んでみせる。
　どんなに近づいても相手は嫌がらない、そう信じて疑わない歩調。

　珍妙な言葉を口走りながら、上機嫌に涼を取るその姿にピアの言葉が詰まる。
　お互いが沈黙し、そして間もなく、遠くの方で地鳴りのように低い呼び声が聞こえてきた。女がそれに反応する。

　言葉とは裏腹に、その声色は優しいものだった。

　思わず、そう答えた。
　その言葉が本心かどうかは、自分でもわからなかった。



　こんな奴もきた。

　呼び声はすぐ近くから聞こえてきた。ピアは閉じていた目を開ける。
　誰もいない。

　言われた通りに視線を下げてみれば、そこには白い猫がいた。
　こいつにも見覚えがあった。やたらと口喧しい印象。いや、そもそも猫がしゃべるという時点でおかしいのだが。

　言うだけ言って、白猫はさっさと踵を返して行ってしまう。
　最後に、こんな声が聞こえてきた。

　　　＊

　いつだったか。確かそう——この世界にきたばかりの頃。
　タンポポ荘計画とかいうわけのわからないことを言い出して、住人を募集し始めたときに、ポポロはこう言ったことがある。
　——みんなで一緒に食べる場所は必要です！
　思えば、いつもそうだった。
　楽しい、面白いとはしゃぐポポロは、いつの間にか一歩離れた場所にいて、みんなの様子を眺めながらぼんやりと笑っている。
　ようするに、ポポロが言う「みんな」とは、自分自身を勘定にいれていないのだ。
　でもそれは仕方ない。
　笑うだけでは、ただ幸あれと願うだけでは、ヒトの隣にいることなどできるわけがないのだから。
　時にはどうでもいいことで苛立ち、孤独であることに優越感を感じ、どうしようない状況に頭を抱え、誰かと一緒になって哀しみを共有し、何かの拍子にわけのわからないことして、寄りかかるものを求めて喧嘩になり、自分を理解してくれと声高に主張する。
　そんな人間くささを、ポポロは一切持っていない。
　だから、わたしがこれからやろうとしていることは、ポポロにとって何の意味もないこと。
　どこまでも自分勝手な、わたしが持つ半分のヒトが「こうありたい」と願ったこと。
　ただそれだけだ。

　夏祭りの準備をはじめてから、もう何度目なのかすら憶えていない。
　昼食に誘おうとしたら、こちらが何かを言う前にピアがそう言った。
　あまりの唐突さに長い沈黙。日陰から、日の当たる場所へ投げかけられた言葉だった。

　短い肯定。それでもポポロにはそれで十分だった。
　ポポロはあまりの嬉しさにいてもたってもいられない。暴れ狂う心情を、身体と声で表現しようとして——機先を制された。

　反射的に聞き返すと、今度はピアが押し黙った。
　ピアがいる場所は日陰で、顔もうつむいていたから表情は見えなかった。
　まあ、いつも通りの無表情なのだろうけど。
　やがてピアは顔を上げ——やはり無表情だった——そして、こう言った。

　　　＊

　ポポロを座らせてから、その隣にピアがぞんざいな態度で席につく。
　一見すると不機嫌そうなピアだが、単に緊張しているだけだったりする。さっきから顔がろくに動いていない。
　周囲の視線が痛い。
　そりゃあ今まで食べなかった者と、その場にいなかった者が揃って席に座っていれば、注目を浴びて当然なのである。
　ピアは誰にも気づかれないように唾を飲み込んで、大きめのスプーンを手に取る。目の前にあるのはドライカレーだ。
　まずは、自分が食べないといけないと思った。
　実を言えば辛いものは苦手なのだが、とてもじゃないがそんなことを言える雰囲気ではない。
　ピアはやけくそな感じでスプーンを動かし口の中に放って、ろくに咀嚼もせずに飲み込んだ。
　美味いも不味いもあったものではない。だけどそれでいいと思った。

　そう言って、ポポロにスプーンを握らせる。

　状況が飲み込めていないポポロは生返事をしながら、もそもそとした動きで食物を口の中にいれる。
　やはり、美味いも不味いもわからなかった。
　そして変わりに、ポポロの頭部の髪の毛がぴょこんと飛び跳ねた。

　ポポロはピアの視線をたどり、自分の髪を慎重な手つきで探る。

　誰かが笑って、みんなが笑った。
　今さらだけど、わたしは最初からこうしたかったのだと悟った。
　ずっとポポロと一緒に食事をしたかった。
　無意味でもいい。例えどこかで離れてしまう笑顔だとしても、そばにいて欲しかった。

　それにきっと、わたしが持つ半分の神様が「こうだった」と憶えているはずだから。

　飽きてしまうなら、何度でも繰り返せばいい。
　例えば、昨日の食事を思い出して、それを話題にするとか。
　それだけでよかったのだ。
　きっとそれしかない。自分に「忘れない」と言い聞かせ、相手に「憶えてろ」と言い合うことでしか、道が続くことはない。


　それは答えにはまだほど遠い、しかし確かな決断だった。
　今まで歩いていた平坦な道に、階段が現れた。
　それは、壁を越えるための道だ。

　突然のポポロサンドに、ロッテの思考は幸せ一色になる

　くるり、と体をポポロの方へと向き直し

　ロッテの豊満な身体がポポロをギュッと包み込んだ

想定してた反応と違うもののCQDには移行出来ているはずなのできっと有利に進めれるだろう
こんな小手先のものが効かない超常生命体の場合は……気にしないことにする

こういうタイプの人物にはCQDの効果は薄いのだなと情報を更新しつつ
接触している身体からデータを取ろうとする——そんな機能はついてない
…でもちょっとやわらかいことがわかった！

感情に反応しているかのように角のような白いモノがチカチカして眩しいかもしれない
締め付けも強くなっている気がする……このまま思考を変な方向に飛ばすと危険そうだ

凄く逝けそうな気がする。（結果はおまかせします）

だめだ、似合ってない。
が、彼女にそんな言葉を投げられるだろうか。
子供のように輝くその瞳に向けて、投げられるはずが無い。

だんだんと苦しくなってきたのか、そっぽを向きつつ言ってしまう隼人だった。

嬉しそうに握手する少女を見て、表情が移るエル。

つい表情が綻び、握手している手をブンブン。

興味津々に質問する少女に、ついつい嬉しくなって調子に乗り始める。

サイドポーチから小さな箱を取り出した。

少女の前でカチャカチャと箱をいじるエル。

外側に付けられた突起を操作して動く機械なんだという。

エルは泣きそうだ！

抱え上げられた事でようやく気がつきました
そして、いきなり喋りだします

動き出したぬいぐるみはキョロキョロと周りを見回し

そして抱え上げてくれている目の前の女性に対しては

と、首を傾げて見つめつつ訊ねてみます
まだ名前間違いに気付いていませんね

口調にはそれほど変化は見られないが
新居の管理人殿に対して早速粗相をしてしまった事に恐縮しているようだ