暑い…本当に暑い。荒野の地質調査もしたことはあるが、そんなもの比べ物にならない。…最悪だ。

　そもそもの発端は数日前にさかのぼる。
　星屑の小川のに分布する動植物は珍しいものばかりだ。職業柄、調べたくもなる。
　…まさか、小川を覗き込んでトラムに突き落とされるとは思ってもみなかった（何故かトラムまで飛びこむ始末だ）。
　「川に入りたそうだったから」と悪びれもせず言ってのける間抜け面に腹が立たないわけがないが、ひとまずそれは置いておく。何故かはじまった水の掛け合いにコーダが盛大に被弾してお冠だったことも…ひとまず置いておく（怒りに身を任せた魔術師がどれだけ恐ろしいかを身を以て理解した）。あの小川の湿度の高い環境で服が渇くわけも無いのでこうやって先に進んでみたわけだが、冗談抜きで殺人的な暑さだ。喋ることさえ億劫になる…。

　そんな環境でも地中を掘り返せば、水を蓄えた球根がひたすら耐え忍んでいたりする。
　乾燥地帯では緊急時の水分補給にも使われるそれを試しにトラムにすすめてみたところ、頬張った途端に険しい顔で目を白黒させはじめた。涙目で苦い苦いとむせている。

　…当たり前だ。それは皮をむいて食べるものだ。


***


　浜辺で催し物があると聞いて顔を出してみることにする。
　バカンス…とでも言うのだろうか？たまにはこうやってゆっくりすることも必要なのかもしれない。
　泳ぐトラムをぼんやり眺めていると（小川のことといい、あいつは泳ぐのが好きなのか？）、グラスを片手に会話を弾ませている人が目立つことに気が付いた。…なんでも、フリント領の領主たちが自酒をふるまっているらしい。思いもよらぬ懐かしい名前に思わずはっとした。

　フリント領。警備隊の書物の中で確か出てきただろうか…、豊かで膨大な森と不思議な伝承を持つ土地だ。この職に身を置く者としては、何とも魅力的に感じてしまう場所でもある。
　いつか、その森を自分の目で見ることが出来たらどれだけ幸せだろう。

　飛び入りで手伝いに参加してみたものの、グラスを差し出そうする度に相手に不安げに視線をそらされてしまう。「無愛想だからだ」とコーダに駄目出しまでされてしまう始末だ。
　…そんなに怖い顔をしてるのだろうか。