一揆が進み、私達はどんどん先のエリアへと進む。
ですが、ずっと進みっぱなしではなく、補給や休むときは街へ帰り休みます。
クロちゃんはタンポポ荘。他の二人はわかりませんがやはり別に宿を取っているでしょう。

さて…そんなわけなので私は一人、宿へと向かっていた。日差しも強く、元々体力がない私には少し辛いです…
そんな日に限って行った先の宿では満室。満室…やはりこの暑さです、皆さん早めに休んでいるのでしょうか？
早く宿を見つけて休もう…と街を歩いている私の前で見知った男性を見かけました。
ですが、何やらお疲れのご様子…？足元もふらふらしているようです…
そう思っていたらふいに彼がバランスを崩して倒れそうになりました。

「正義さんっ！」

私は急ぎ彼の元に走り、倒れそうになる身体を支えました。
彼はゆっくりとこちらを見て、自分が支えられていることを理解したようです。

「リフィ……」

なんだかとてもお疲れのご様子。とても心配です。

「大丈夫ですか？正義さん……」
「すまない…、ここんところ疲れが溜まってたからさ…、ははは……。大丈夫…、宿までの距離は近い。ここからは一人でも…」
「駄目ですよ、正義さん。そんな状態で一人で歩くの、大変そうじゃないですか……。無理…しないでくださいっ」
「ごめん……」
「私が支えますから…、一緒に行きましょう」

正義さんを支えながら、宿を探す…
正直、支えてるだけではありますが私も疲れています。思った以上に大変です。
ひとまず宿を探して正義さんを休ませないと…
次の宿までの距離は近く、およそ歩いて三分くらいでしょうか？
しかし今のこの状態ではそれよりも多少時間はかかるかもしれないです…
私は正義さんと共に、近くの宿を目指しました。
今度こそ宿の部屋がまだ空いていれば良いのですが…

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宿は到着した頃には部屋の空きが丁度出来ていたものの…、部屋は一部屋。
残りの部屋は全て今日の宿泊客ばかりで埋まっているらしく、今日はもう空きそうにはない様子。
他に宿の宛があるとすればここからさらに結構離れたところにある宿ですが、
私は自分があまり運が良くないことを知っています。
外の様子をみると雨が降り出していた。大体この時期の雨は結構長引く…
この調子だとすぐに激しい一降りもくるでしょう。
この後、部屋の空いている宿を探すのは大変かもしれません…
それに今この状態の正義さんを放っておくのもあまり良くないように思えますし…

「あの…正義さん。相談が…」

私は顔を真っ赤にしながら正義さんと相部屋にすることを話した。
もちろん男女が同じ部屋で一晩過ごす。というのはとても恥ずかしい…
もし、正義さん以外ならそうせずに大雨でも別の宿を探したかもしれない。
正義さんは私にとってはとても大事な人…私が好きな人だから…

私が正義さんと出会ったのは、数日前の…妖精達の経営する森の宿でのこと。
私が初めて妖精の森へと訪れた日…、森の中にある宿で私たちは出会った。
この森のことや一揆に参加して思った以上に大変なことがわかって私は落ち込んでいた。
そんな私に彼は声をかけてくれて、妖精の森についていろいろ教えてくれたり、
私のことを励ましてくれました。
それ以来、彼とはちょくちょく会っては色々なことを話したり、
時には一緒に猫たちの集まる街の近くの公園へ行ったりもしました。
正義さんとの時間は楽しくて、あっという間の時間さえも彼と一緒だと不思議と長く感じていたました。
寝る前なども、次に会ったらどんな話をしようとよく考えるようになりましたし、
彼の喜ぶ事を何かしてあげたいなと思ったりもした。
あぁ…私は正義さんが好きなんだな…といつの間にか思っていました。


「しかし…、本当に思い切った決断に出たなぁ」
「とりあえず正義さんを休ませる必要がありましたし…」
「あはは…、おかげで助かったよ…」

部屋の中は十分すぎるほど綺麗にされており、次にやってくる客が気持ちよく過ごせるように細かい配慮がなされている。
正義さんはゆっくりと近くのベッドに腰をかける。無事に部屋で身体を休めることも出来てほっとしている様子。
ですが、先ほど倒れそうになったのです。すぐに体調がよくなるはずがありません。

「とにかく、正義さんはベッドで横になっていた方がいいと思いますよ…」
「あ、あぁ……」

私は正義さんの顔色を伺いつつ、横になってもらう。
とりあえずベッドは正義さんに使ってもらうので私は近くにあった椅子をベッドの横に持ってくる。
そして椅子に座りながら正義さんの様子を伺う。

「何か必要なものがあれば言ってくださいねっ。……ところで、何かあったのですか？とても辛そうですが…」
「ちょっと体力結構持ってかれてなっ。正直俺もよくわからないんだけどさ…、戦いの最中に俺の身体から蒼い光が溢れ出して…、その光が目の前の敵を一閃して仕留めた後にどっと疲れが溜まったというか…、そんな感じだよっ。今はその原因を調べているんだけれども…、まだ詳しいことはわからずじまいさっ……」
「う〜ん…、まぁそれならこうして休んでいるのが一番なのでしょうか…」

正直話の内容がさっぱりわかりません。とにかく原因不明の出来事で疲れている…と。
もしかしたら熱があるのかなと思い、正義さんの額へと手をあててみたが、特に熱はないようです。
それはそれで逆に不安になる…いったい何が原因なのか…

「そんな顔をするなよ、リフィ。幸い命に別状はなかったんだからさっ…。でも…ありがとう、心配してくれてるんだよなっ」
「もちろん心配しますよ…でも…大丈夫なんですよね…？」
「あぁ…、だから今は、こうしてすぐ近くでリフィと話すことも出来るし、こうしてリフィと触れ合うことも出来る。…やっぱりリフィが近くにいると、何だか嬉しいなっ」

彼は手を伸ばし、私の手に触れる。
私も彼の手を両手で優しく包みこむ。
病気などで寝込んでいるときは誰かがいてくれるととても安心するものですし。
けれども雰囲気は少し気恥ずかしい。正義さんも少し照れている様子でした。
時間にしてはそれほど長い時間ではなかったかもしれない。
けど、私にとっては結構長い時間そうしていたが、
正義さんを早めに休ませた方が良いと思い…

「今日は…その…ずっと一緒ですから…ゆっくり休んでください」

そう言いながら彼の手をベッドの方に戻しながらシーツをかけようとする

「あぁ、シーツくらいは俺が…」

彼は身体を起こし、シーツへと手を伸ばした。

その時、再び私の手と彼の手は重なり合い、そして互いの距離も再び限りなく近いものとなる。
気がつくとその場でじっと見つめあい、胸も激しく鼓動していた。
重なり合ったその手。どかすことも動かすこと躊躇われる。見つめあう時間が、私たちにとっては不思議ととても長く感じていた。

「…………」
「あの…正義さん…？」

彼はほんのわずかな時間何かを考えているようでした。
やがて、真剣な顔で話しかけてくる。

「リフィ…。俺…、これまでたくさん話したり、一緒に公園に行ったり…、本当に楽しかったよ。こんなこと言うのも恥かしいけど…、リフィとの楽しい時間が…もっと長く続いていたらって思ってたこともあったよ。リフィ…、俺はリフィのことが…、もっと知りたい」

それを聞いて、私は驚いた。
私は彼が好きだったが、彼も私のことを…
嬉しくて涙でてしまう…

「わ、私も…最初に会った時から正義さんとお話して元気になれて…色々と気を使っていただいて…嬉しかったですし、楽しかったです。次にいつ会えるのか…会えたらどんな話しようとか…考えるようになって…。だから…嬉しいです。私も正義さんのことをもっと知りたいですっ…」

私は私の気持ちを…素直に彼に話した。
彼は私の手をゆっくりと引いて私の身体をぎゅっと抱きしめてくれた。

「こうしていると安心します…」

私も彼を抱き返し、お互いにしばらく抱き合う…
彼の胸の鼓動が伝わってくる…、激しく高鳴るその鼓動が…私を安心させてくれました。

「正義さん…」
「好きだよ…、リフィ」

私は瞳を閉じて彼を待つ。彼はそっと私と唇を重ねた。
互いの唇の確かな柔らかさとぬくもりは、愛に溢れていた…。

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私は急に彼の身体のことを思い出して不安になる…
しかし、一揆による疲れ、彼を支えての移動、その後のことで身体が睡眠を欲していた。

「そういえば…正義さんの身体は…大丈夫なのでしょうか…」

呟くように言うのが限界で私の意識は夢の中へと沈んでいった…

「…まさよしさぁん…」

この日の事が夢でないように思いながら…

ハテナ顔で耳をぴこつかせ続けるきちゅねであった。

耳に続いて尻尾までぱたぱたし始めた。陽の光に反射して毛並みがきらきらしてる。

リフィの視線の動きに気づいたのか、モフ耳をくてんっと前に倒し、長大な狐の二尾をもふんっと目の前に差し出す