平和ボケというか、警戒心に欠けていたというのに今更気づいた。
護衛を募集した彼女が信頼できる人物なのか全く考慮していなかった。
いきなり見知らぬ世界に飛ばされて心細かったのは認める。
まだまだ未熟者だな、俺も。

自他共に魔女と認める彼女は信頼に足る人物なのだろうか。
俺の世界に存在する魔女は…フィクションではほとんどの場合悪役。
史実に存在した「魔女」と呼ばれる人物たちは…言いがかりも少なくない。
とにかく「悪役」のカテゴリーに入るのは確かだ。
このメルンテーゼにおける「魔女」とはどんな存在なのだろうか。
先の練習試合で食って掛かってきた赤毛の青年は「魔女」である彼女へ、明らかな敵意を向けていた。
実際のところは誤解…だったのかな。練習試合の後に和解してたし。
黒い魔女の話はロロムの村とも関わりがあったようだ。
そこではありがたい人物として称えられていたらしい。
サイン頼むくらいだからよっぽどだろう。
人によってこんなに評価が違うのは実にミステリアス…判断に困るな。
出先だから人の噂程度にしか情報も集められないし、
そういう不確かなものよりは自分の目で彼女がどんな人物か確かめたい。
今回の護衛の件、早まったことではないと信じたいところだ。

重い話はこの程度にしておいて。
先程話に出た赤毛の青年の肩にいた鳥もサラマンダーらしい。
俺の中のサラマンダーの定義が危うい。
それより、その鳥のサラマンダーが服を着せられていた。
あれは可愛いな。
折角作製の修練を重ねているところだし、俺が契約しているサラマンダーのケロ用に服を作ってみた。
普段から透明だから、せめてどこにいるかだけでも視覚的に分かりやすく。
着せてみたところ、居心地悪そうにもぞもぞしたかと思ったら、バンと音を立てて服が爆発した。
いきなり着せられて驚いたかな。
普段から透明だし、目印を付けられるのは都合が悪かったのかもしれない。
その後のケロの反応を見ると、そんなに怒ってはいないようで助かった。

ちなみにグラは出会ったときには既に服を着ていた。
さながら三銃士というか長靴をはいた猫というか。
シェイド(そろそろ名前つけたい)はどんな格好をしているんだろうな。

どこからか羽ペンを出し、さらさらと書く。

(両手で貰った魔女のサインを掲げ、大喜び）

***ロロムの次の戦闘のやる気があがったかも！***

魔女は見逃していなかった。
ヘクター卿が魔女と罵る声に、仕草に、驚いた彼を。

目を閉じ、呼吸を調えて神経を集中させる。
早口に異国の歌のような言葉を唱え始め。

ふわ、と風が彼女の周りにまとわりついた。
大鍋が魔女の前に立った。

そう言うと目を閉じ、早口に異国の歌のような言葉を唱え始め。

ふわ、と風が彼女の周りにまとわりついた。
大鍋が彼女の前に歩み出た。