５

　（判読不能）の月、（判読不能）日　洞穴にて

　辛勝。その言葉に相応しい戦いだったように思う。
　兵士二人を相手になんとか勝利を収めた僕たちは、彼らを縛ってからあの洞穴に戻り、ゆっくりと自分たちの手当をした。
　血液と共に緊張感が流れでてしまったようで、僕らはぼんやりと焚き火を囲み、ぼんやりと回復を待つ。鉄製の薬缶を火にかけてぱちぱちと薪が爆ぜる音を聞きながら、僕は先のたたかいに思いを馳せる。

　戦法を見直して剣の練習をして、それでようやく勝てた。しかも決してすんなりとは言えず、僕はばっさりと左腕を負傷してしまったし、セバスチャンもあとでしっかりとメンテナンスをしなければいけないだろう。

——強くならなければいけない。

　ぼんやりと剣を手繰り寄せる。刃渡り42インチの鉄塊。父が設計し僕が組み立てた、少し古ぼけてしまった僕の剣。魔動モーターによって回転するたくさんの歯車が焚き火にきらめく。組み上げた当時は僕一人では持てないくらいに重くて、その翌年にやっと持てるようになって、更にその翌年にようやっと剣を振れるようになって、結局それなりに扱えるようになったのはついこの間のことだ。
　扱えるようになったと言ってもやはり僕は剣に振り回されていて、たぶん、きっと、決して、優秀な使い手ではない。

　剣を軽くするべきかと一瞬だけ考えて、やめた。僕が強くなるべきなのだ。
　重いままの剣を、手のひらの皮をずりずりと剥きながらでも不恰好に振るうほうが、軽くなった剣をすんなりと振るうより、きっとかっこいい。
　成長とはたぶんそういうことなのだろうと、まだまだ子供の僕は考える。

　シュンシュンと蒸気が噴き出す音がしたので、金属製のカップを荷物から取り出す。それから紙に包まれたネクターも。すっかり乾燥させて数種類かのハーブと混ぜ合わされたそれをカップの中にいくつか入れて、薬缶から熱湯を注ぐ。温かい湯気がしっとりと僕の頬を湿らせる。ついでに取り出した金属製のマドラーでカップの中の湯を掻きまぜると、独特の香りが立ち上った。

　ひとくち。苦い。
　鞄から角砂糖の包みを取り出して、少し考えて、結局それを元通りに鞄へしまう。

　もうひとくち。やっぱり、とても苦い。

少年の態度に不審そうな眼差しを向け。

首根っこを掴まれぶらんぶらんと揺れながら、小さく首を傾げ。

揺れたままで、器用にお辞儀を。
心なしか振れ幅が大きくなってきている。

ピンク色の髪をした女が真っ直ぐに青年に近づいてくる。

何の説明もなく唐突に話しかけてきたその女は、遠慮なくそのまま続ける。