どことも知れぬ深い闇の中。
黒衣に身を包んだ二人の男が話し合っていた。

黒い、割には朗らかに。
ラインの上司、ボスは笑っている。
まるで、親戚のおじさんに人見知りする我が子を眺める父親のような——そんな表情で。

しかし、ラインはそんな視線に気付きはしない。
何故なら彼は、人見知りゆえにイッパイイッパイなのだ。

幼い頃から孤独に生きていた彼にとって、人付き合いなど絵空事。
訓練や仕事で接する闇の世界の同僚達は、彼にとってあくまで仕事仲間でしかなかった。
彼が唯一気軽に話せる相手は、今目の前に居る冴えない中年親父—ボスのみである。
だが…、同時にボスは彼がもっとも恐れている人間であった。
その為、彼はボスに対しても一線を引いている。全てを曝け出す事は出来ない。

そう、黒閃の雷蛇ことライン。
彼は”ぼっち”なのだ。

そんな彼に初めて与えられた人付き合いの場、コミュニティ。
それは、賞金首を対象とした取引場の管理だった。
初めての挑戦にしては、難易度高すぎだろバーロー。
ってなモンだ。

ボスはポリポリと頬をかきながらも、やんわりとラインの言葉を遮った。

ぴしゃりと言い放つ。
ラインはゴクリと生唾を飲み込んだ。
こういった時のボスの言葉は、反論を封じる凄みがある。
ラインはいつも、この調子のボスには何も言い返せない。
その様子はまるで、父親に叱られてすくみ上がる子供のようだ。
…だがしかし、彼が気付く事は、勿論ない。

ラインはぐっと拳を握り込み、俯いた。
この先、参戦者達を罰する事で、自身に賞金が架せられるだろう。
これまでも、裏の仕事で危ない橋は渡ってきた、今更と言えば今更だ。
だが、彼にとって今回の仕事は今までと比べ物にならないほど正等であり、正義と呼べるモノだった。
それ故に、罪となるのはやるせない。
罪とする者達が許せない。

普段とは違うボスの声音、ラインは不思議に思い顔を上げた。
だが——

突然顔面を撫でられて、ヘンチクリンな声があがる。

耳まで染まった真っ赤な顔で、走り去るライン。
その様子を、はははと笑いながら見送るボス。
その姿が完全に見えなくなってから、小さく呟いた。