──日記帳に小さな足跡がついている。


“僕はアズゥ、ハールのエンブリオだよ。
僕とハールの契約はとても奇異で、それはおかしな出会いだったんだ。
だってハールが僕を大きな虫と勘違いして叩き落としたんだよ？
僕、そのまま気を失っちゃって。
気がついたら契約が成立しちゃってた。
僕もハールも、少し後になってから気がついたんだけどね。
僕は姿見がこんなだから、ハールはとっても心配してくれたんだ。
怪我はないか、痛くはないか　とかね。
何度も何度も”すまなかった”って。
僕おかしくっておかしくって！
お人好しな人間だなぁって思ったよ。
いつもの僕なら捲し立てる所だけれど、ハールにはそんな気は全く起きなかったんだ。
自分でも不思議。
その後、ヴェルメリオを紹介された。
ばかでかい珍獣だったよ！
あんなデカイの、僕見たこともない。
それにちょっとバカなんだ。
呆れちゃうよね、あんなにおっきな図体してるのに中身はまるで人間の子供みたい。
だから僕、いつもあいつをからかって遊んでるんだ！
ハールには、時々叱られちゃうけど……でも楽しいんだ！
出会いはあんな形だったけれど
僕はハールと契約できてとっても良かったと思ってる。”

僕達がいることで、ハールは苦しむかもしれない。
けど、きっとハールは「辛い」とか「苦しい」とかそんな事言わない。
でももし、僕らを手放す時が来ても
我儘なんて言わないよ。

しっぽがパタパタと揺れている。

褒めて撫でられ、大層ご満悦の様子でその大きい体躯をすり寄せた。

握手を求め、すっと右手を差し出した。

そう言うと初老の男性は軽く笑んで頭を下げた。

『遊び』という名の腕比べにおおよその決着がついた後。
黒髪の男——ブラックは、相も変わらずにこにこしながらあなたに歩み寄ってきた。

そう言って、すっかり打ち解けたらしい獣と相方の男の方を見ながら
少しだけ眉尻を下げて笑って見せる。

「良い所ってのは、ほら…例えば俺なんかより、よっぽど動物好きってこととか」
と おどけて見せて、ブラックはもう一度笑いかける。