私は眠るきららを腕に抱えて本を読んでいた。
あの島の事は何十年。いや、百年経っても忘れない。
かなたやルーリ、ビシュク達と過ごしたあの僅か数か月間の物語のことは。

ふと、私は誰かの望みがあの島で叶うのならば——と思いを巡らせた。
あの島に存在したマナは望まれぬ復活すら引き起こす。

例えば——

シャルロット。私は目の前で彼女がカーナルドと再会する所を見た。
カーナルドは明らかに狼狽していた。

彼女は探索の最初の頃「カーナルドの妻」を自称していたゾンビだった。
骨は身体からはみ出して、頭蓋骨も見えていた。
そう。明らかに彼女は死んでいた。理由は最後までわからなかったが、確実に
死んだのは事実だろう。カーナルドもリーゼロッテもその死に関わっていたかまでは
分からないが。

黒い羽の農夫たち。
彼らもまた狂人と化していたが、恐らく何かの奇跡が起きていたのだろう。
これらの事象から、死んだ人たちがマナの力で蘇るということはない。

はずはなかった。

私は一つの結論に至った。マナは生命と時間の理すら捻じ曲げるのだ。
それを知ってか知らずか。マイスは私をあの島へとたどり着くように誘導したのだ。
10歳から20歳までの人生を孤独と忘却に彩りつつ。

マイスにとっての呵責。それは、私の人生を奪った事だった。
彼女にとっても、私にとってもそれはとても不幸な事故。
やっとその傷跡がぬぐいされそうだとはいえ、彼女はまだ
気持ちとして拭いきれていないのは明白であった。


——　そういえば　——


何処から、その歯車は狂ったのだろう。
何処から、運命は回ったのだろう。

マイスは言っていた。もし、時間が捻じ曲がらなければ
私はただの家出の放浪魔術師じゃないかしら。って。

きららは私の腕の中で軽く泣いている。
恐らく、彼女が——　少女になるまでには私は人間としての命数を
失っているだろう。

望めば、いくらでも生きられる。
でも、私は人として生きたかった。

ふと、私は父親の事を思い出した。
　私がマイスと呼ばれていた頃には既に亡くなっていた——

そう言って、彼は木気を帯びた剣……という名の杖を抜いて構えた。

そう言って、彼は木気を帯びた剣……という名の杖を抜いて構えた。