おかしいのです。
　わたしはさっきまで、罪人と遊んでいたはずですが。
　瞬きの後、どうしてわたしは、まったく知らない場所にいるのでしょう。

　ぐつぐつ煮える血の池も、天高くそびえる針の山も、底が存在しない毒の沼も此処にはありません。
　あるのは沢山の木と、石を積み上げた大きな居住と、それからわたしだけです。
　……いくらなんでも、流石に理解が不能なのです。追いつかないのです。
　こてん、と小首を傾げれば、ある事柄に思い当たります。

　恐らく、わたしは拉致されたと見て間違いはないでしょう。
　この世ならざる力を行使する者は、腐るほど溢れていますから。
　か弱く愛らしく可愛らしいわたしを浚うのは、至極当然。美少女の宿命です。
　鎖で繋いであんなことこんなことを企む輩は後を絶ちません。これは極刑です。股間潰しの刑です。



　——と、ひとしきり馬鹿を騙ったわたしは、隣の巨躯に視線を合わせます。
　正確には、目らしきところを見て、視線を合わせる努力をしてみます。
「あなたなのですね。わたしを此処に連れてきたのは」
　隣には、濃い土色をした巨人が、付き従うように立っていて。
　わたしは何故か、巨人のことを知っているような気がしました。

　物云わぬ土塊の巨人よ。
　おまえはどうして、わたしを選んだ？