「ムルタ」
　「…なんだよ」

ここ暫く—と言ってもそんなに長くもないけれど—一緒に過ごしてみて分かったのだけれど、ムルタはなかなかに気が短い。
それなりに整った顔立ちと、綺麗な色をしているのにそれらを全て台無しにし兼ねない程度には、怒りっぽいのだ。

　「暇ね」
　「そりゃそうだろうよ、少しはどうするか決めたらどうなんだ」
　「やあね、それは私の仕事ではないでしょう？
肉体労働は貴方の仕事よムルタ。私より体力だってあるでしょう？」
　「なにを根拠に言ってるのか全く分からないから僕はそろそろキミのことを蹴りたいと思っているよ」

それから、とても口が悪い。
見目の美しさ—黙っていれば、まあ、美青年と呼ばれる部類には入るのではないかしら—に正比例して口が悪くなる種族なのかしら、ドールって。
人形だっていうと怒るし、人間みたいに振る舞うし、可笑しい子だわ。

　「そう、蹴ってもいいけれど、私は貴方の数倍は強いわよ」
　「…ふぅん、か弱いレディが聞いて呆れるね」
　「あら、疑ってるのかしら。だったら自分の身体を使ってひとつ実体験してみるというのは如何？
か弱いレディだって、こういった道具を持っていればまったく問題なく人の一人や二人、叩きのめせるんだからっ！」

さー、バッター振りかぶってぇ〜！と言う声を添えながら手にしていた日傘をフルスイングしようとした時—



闖入者の出現で、私の日傘が唸りを上げてムルタをぶっ叩くこともなかったけれど、少しだけふて腐れたムルタのことを、ごめんなさいねと言いながら撫でてあげたら、少し複雑そうな顔をして、別に、いい。とそっぽを向いて返してくれた。
…あらやだ、この子照れてるのね。案外かわいいところ、あるじゃない。

そう言ったら、「うるっさい、ばか」と返されてしまったけれど—今日はまあ、可愛いお嬢さんもいることだし、これ以上追撃するのはやめておいてあげるわ。命拾いしたわね、ムルタ。