突然、その子はやってきた。
ボクたちの前にやってきた。

肝心のその子は寝てたから。
かーこには寝ると言って、マスターと連絡を取ることにしたの。
少なくとも、ボクは彼女のことを知らない。
だけど、彼女はかーこのことを知っているみたいだったから。
このまま眠れるはずがないじゃない。

……でもね。
接続を試みたんだけど、ずっと反応がなくて。
向こうの状況は想像できるんだけどね。
ボクはそれでも、彼女の情報が必要だったから。
ずっと、ずっと接続しようとして————


————気がついた時には朝だったの。
しかも、昨日、ヘンタイがいた場所のすぐ近くで。
慌ててかーこにきいてみたら。

「お、鳴、おはよー。」

そうじゃなくて。
……うん、ちゃんと返したんだけど。そうじゃなくて。
ボクが知りたいのは、どうしてもうここまで来てるのかってことで。

「それなー。疲れてるみたいだから、寝かせておけって。」

一体誰が？マスター？それとも……。

「いやー。ヒエンが言ったんだ。今は、ねてるけど。」

ヒエン？寝てる？
そういえば、"エンちゃん"って呼ばれてたよね。
ってことは、あの子？
名前を知っているということは、訊いたか思い出したか、よね？

「きいたきいた。
　名前は、ヒエン・カナビイニ。種族は妖精。
　マスターの使い魔だったらしいんだけど。
　うん？今は使い魔なのに、使い魔だった？……でー。
　昔の僕と行動してたらしい。
　いつ体を変えたの？とかいろいろ言われたー。」

そう。元、使い魔ね。
それも、私がそこに来る前にいた。
かーこのことを知ってる理由も分かった。
でも、ここでは調べられないのよね。
せめて端末でもあれば————

「まだ、あのヘンタイいるみたいだなー？」

そんなことを考えていたら、もうそんなところまで。
今日こそはなんとかしなきゃ。
ボクが、かーこが傷つかないように考えなきゃ。

「鳴ー、今日はどうするー？」

傷つかないようにするには、素早さが必要だよね。
それなら。

「それじゃダメ。今回はあたしにまかせて。眠たいんだから……。」

えっ？ああ、そうだった。あの子が起きてたの。
でも、任せてって……いいわ。見せてもらおうじゃないの。
不甲斐なかったら、すぐにでも送り返してやるんだから！




……勝った。勝っちゃった。
悔しいけど、よく分からない妖精のおかげで。
話をききたかったんだけど、すぐに寝ちゃうし。

よし。今度こそマスターに訊こう。
この子——ヒエンは寝てるからそのままで。
かーこにはお仕事を探してもらうから。
その間に通信しておくの。

「鳴、ヒエンをたのんだー。」

これで準備できたの。
後は、呼び出すだけなの。
落ち着いて。……良し。




————————— SOUND ONLY　START —————————


マ『あの、その、実は、悩みがあるんです。』
エ「ほほぅ？ピンときたよ。それはもしや、片思いというやつじゃないのかね？」
マ『そ、そうかもしれません！でも私、どうしたらいいのか。』
エ「大丈夫っ。そんな時は、ここに一泊するといいのさっ。」
マ『ここは、宿屋？』
エ「そう。でもね、ただの宿屋じゃないんだよっ？
　　キミの力となる植物がひとつ、サービスで用意されるのさっ！」
マ『素敵！だけど、花粉アレルギーでも平気？』
エ「もちろん。心配無用さっ。
　　ここの主人なら、何も言わずとも察してくれるからねっ。」
マ『妖精さんも大絶賛！』
エ「あなたの安息と、前へ踏み出すきっかけはここにあるっ！」
『「フェ——」』
メ「——バカが増えたですの。」

エ「やほー、メイちゃん！お悩み相談かなっ？」
マ『そうなの。実は、かーこちゃんが取られそうなの。』
メ「待つですの！そういうのはもういいですの！
　　時間がないですの！」
マ『おこられちゃった。』
エ「きっとどこぞの主さんが悪いんじゃないかなっ？
　　ささっ、本題をどうぞっ！」

メ「……あの子、何者ですの？」
エ「昔のあたし、それに近いものだよねっ？」
マ『完全に同一ではないけどねー。
　　そんなことが知りたいわけではないでしょう？』
メ「もしかして、ボクの前任者ですの？」
エ「ややっ？メイちゃんのとは違ったような？」
マ『エンちゃんの時は、"ガンガン行こうぜ"だったからねー。
　　ま、他にもいろいろと状況が違ったわね。』
エ「メイちゃん。あの子のこと、よろしくね？
　　ちょっと困ることあるかもだけど、ふたりのジャマはしないから。
　　あたしが言うのもなんだかなーって思うけどねっ。」
メ「わかったですの。」
マ『心配無用よ。ちゅんたならできるから。』
エ「へぇー？ふぅーん？」
マ『あ、いたいた。ちょっときいてー。エンちゃんがねー？貴方のこと——』
エ「——わー、わーわー！何もないよっ！？何てことするんだよっ！！」
メ「……マスター。そこで迷惑かけてないで、ちゃんと戻るですの。」
マ『はーい。それじゃ、ね。ちゅんた。
　　エンちゃんもまたねー。約束のものは用意しておいたから。』
エ「確かに、受け取ったわっ！」
メ「またですの。」
エ「がんばってねっ。」


ヒ「……主。服の設計図、送って……。」
マ『ヒエンね。調子はどう？』
ヒ「……ねむい……。」
マ『そう。まだ、時間がかかりそうね。
　　これでいいわね？』
ヒ「……そう、これ……。」

マ『"未歩の服"を使う、か。これで少しは変わるかしらね。』


————————— SOUND ONLY　END —————————

かーこたちは森林へワープしました。