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ドキュメント-０２

　私は早急に当面の問題について、思考に耽る必要があった。完全なる人工知能を創造するに、問題となるものは、何か？　幸いにして、金ならばあった。私自身それなりの貯えはあったし、何より父の残した遺産がある。それらを合わせれば湯水のように浪費したとしても、生涯で使い切るのは難しいだろう。その点で私は実に幸運な立場に居ることに気付く。
　父も、自らの研究のその先に遺産が使用されるならば、文句は言うまい。いやむしろ感激に咽び泣いてもおかしくはないと、私は考える。これは自己弁護などではなく、純然たる事実だろう。推論は飛躍すれば、限りない事実となり得ることは、連綿と続いた歴史が証明しているというものだ。
　話を元に戻そう。完全なる人工知能。言葉にすれば陳腐ではあるが、その実現には果ての無い戦いが待ち受けている事は、間違いない。人工知能という言葉は1956年からその名前が提唱され、以来六十年、完全なる人工知能を目指して研究が続けられている。
　だが結論から言ってしまえば、その研究は悉く失敗していると言ってもいい。それは偉大なる我が父とて例外ではなかった。父は、敗者である。だが科学の世界に置いて、敗者は負け犬ではない。偉大なる敗者は、遠く近い未来で必ず勝利の栄光を掴めるものだからだ。
　だが、現在の見通しは暗澹たるものだと言っていい。現在の技術では、完全なる人間の思考を再現することは、ほぼ不可能であると断じられている。無論、それに似た模造品を作るならば話は別だが、それを論じる事にはイミがないだろう。
　完全なるＡＩを作り出すには、３つの課題があるとされている。
　一つ目はコンピュータビジョン。所謂目と認識の分野に関する問題である。思考を行うＡＩが完成したとしても、外的要因の認識が不可能ならば、それは閉じた世界での機能となり、ＡＩとしての性能を最大限に発揮はできない。
　二つ目は自然言語取得のアルゴリズムである。人間は、経験を重ねることで日常使用する言語の理解に至る。数々の言語を一種のデータとしてＡＩに搭載することは可能である。だがそれは思考と理解からは程遠い、応用でしかない。
　三つ目はチューリングテストを突破することである。チューリングテストとは、有体に言ってしまえば、ＡＩが人間として振る舞い、試験者である人間を欺くテストである。要するにＡＩと人間それぞれの試験管が、試験者の人間と会話を行い、いかにＡＩが人間を欺くかというものだ。
　このうち、チューリングテストに関しては、毎年数多くの研究者達がその厚き壁の突破に情熱を燃やしている。そういう賞があるのだ。例えばArtificial Linguistic Internet Computer Entity——通称A.L.I.C.E.などは、人語理解に長ける人工知能の雛形として、優秀なＡＩだ。
　だが、それを以ってしても完全なるＡＩには程遠いのである。
　わたしが完全なるＡＩを作製しようとするならば、それらを遥かに凌駕する優秀なものを創る必要がある。ともすれば、真っ先に問題になる点といえば、技術の問題だ。
　現代科学の技術で、作製ができないとするならば、私はどうするべきか？
　諦めるなどという選択肢はない……だが。
　完全なる人工知能。
　ココロの模造品。
　ココロ……。
　それは、果たして本当に作り出せるものなのだろうか？
　この私の手で……。
　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2010年　11/10　我が書斎にて
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　フィリップ・ボウマン


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「現在のパラメータを表示します」








「ＡＩ【ADAMALICE】正常に作動しています」

「ＡＩ【ADAMALICE】、アップデートの可能性を確認」

「『人間性』の数値が増える事で、ＡＩ【ADAMALICE】の新たな回路が起動します」

アエレアのずれた反応に、イリスは些か戸惑った様子を見せた。……が、すぐに思い直したように、アエレアの言葉を頭のなかで反芻して、答えた。

しかしアエレアには、フライデー１２からのモニターにより、動揺などの推移は全て心拍数のデータとして伝わっているかもしれない。

本当に、何もわからないといった風のアエレアを見て、イリスも考えを改めたらしい。自身の好奇心を埋めるより先に、彼女のことだと。

自分がアエレアに驚きを持って話しかけた事は一旦そう締めくくってしまえば、イリスは続けてアエレアに問いかけた。

金髪の少女がまっすぐに近づいてきます

何故か怪訝そうな視線をして