——妖精とは自然そのものである。
自然の取り扱いに注意が必要だ。それは妖精にも当てはまる。

「ひまですのー」

茶々はその一種に属する。

「ひまですのー」

取り扱い注意。

*

「——と、いうわけでござる」

錆びたMy包丁をずいっと出して、忍は言う。
見事に錆びたソレを哀しげに見つめながら。

「そうは言うがな、俺が注意したところで聞かねぇぞ」

差し出された包丁を手にとって、じろじろと眺める。

「あいつのはなんつーか…　まぁ自然外傷なんだよ。どうにかしたってなぁ」
「しかし…　な。拙者はお主ほど扱いを心得てるわけではござらん」
「さびてるですのー。せんさま、これさびてるですのー？」
「“錆びる”からな。このままじゃ“衛生的に食材を捌く”ことができねぇんだよ」
「へー、ですの。たいへんですのー」

まるで人事のように話す妖精を適当にあしらいながら、話す女に黙る男。

「ひまですのー。せんさまなんのおはなしですの？」
「軍略の話だ」
「ぐんりゃくってなんですの？」
「グンマーが侵略する話だ」

頭にクエスチョンを浮かべて、忍に向き直った妖精は

「ぐんまーってだれですのー？」

と訊ねた。

「それは——」
「グンバツのマタンゴだ」
「またんご！」

またんごですのー、いやーんですのー。と妖精はどこかへ飛んでいった。

「……マタンゴが」
「違う」

対処法なのだろうか、と続けられる前に否定する。
ぱりぱりと綺麗に錆が落とされた包丁を忍の目の前に置いて、

「マタンゴが何かも知らねぇよ、まぁ俺も知らねぇが」
「………いつ見ても不可思議でござるな」

綺麗になった包丁を手に取る。対処法についてはある程度『慣れろ』という意図は汲み取ったのか。

「龍貴殿に迷惑はかけられぬ」
「ああ、最初に見つけたのはアイツだっけか」

たまたま——調理の合間に『錆びてしまった』包丁を見てしどろもどろになっていた。
茶々とともに様子見にでもきたのか、偶々席を外した数秒の隙。

「細けぇことはいいんだよ」
「……お主のように、振舞えればな」

彼がそうなれるかは別として——多少はそういう部分を持ってもいいだろう。と。

「いや、お主のようになったら困るな」

それは冗談か。本音か。

「無理だろ、あのお坊ちゃんはそういうタマじゃねぇよ」

ため息を吐いて、呆れたように頬杖をつく。

物事の質を見る女は、少年の質も見えてるのか…　己のようにはならないと確信していた。

「期待か、なんかはわかんねぇがよ…　なんつーか、珍しいな」
「ふむ……」

そのあと話を続けるつもりもなく、欠伸が出てなんとなくその話は終わった。


「まぁ茶々に関しては気にすんな。適当にあしらえよ」
「…そうか」
「良くしたり、邪険に扱うとな。こじらすぞ」
「難しいな」
「あれも女だからな……」

意味ありげな視線を向けられ——たわけではないが、そんな気はした。
が、どうでもいいのでごろんと寝転がる。

「なんかあったら起こせ」

と偉そうに言って目を閉じる。

忍は音もなく立ち上がり、その場を後にした。
そういう性分なのだろうか。彼も気苦労が耐えないタイプだと思う。
それもまた、どうでもいいと思っているのでうとうとと——


*


「——せんさま、またんごってやばいなまえですの！」

知らねぇわ。

（主に戦闘に不慣れな龍貴に向けて自分の意図を伝え、間合いを取る）

茶々に言葉を遮られ、聞き取れなかったようだ。

茶々さんにあげれそうなのは…、
韮と…美味しくない草と…蒲公英と…ネクター…かな…。
……うん。ネクターは取られちゃったけど。

水筒を取り出し、コップへ注ぎ、差し出す。

味の好み。そんなに気にしていなくても、神様への供物だからなあ…。

（青少年の前で風呂上りに際どいかっこででうろついたり、
ガバーとあぐらかいたりするのやめたげて！と、暗に言うオカン）