本来、魔術師は特定の宗教に拠ってはならない、拠るべきではない、と言うのがシノの持論である。
　頭に「本来」がついているのは、シノ自身がその持論から外れた道を歩んでいるからなのだが、それはここでは深く語るのはよそう。ともあれ、シノがいま使用している魔術を編み上げるのにエッセンスとしてとある宗教を加えたのには、この手に携えた杖が関係していた。
　権杖「トトー」。
　上に大きな魔法石を据えたこの木の杖が権杖の名を冠しているのにもこれまた理由があったが、やはり割愛する。重要なのは、シノが所有する前より、この杖には「トトー」と名付けられていた事である。
　「トトー」——この杖の正しい名前を、「サルヴァトーレ（救世主）」と言う。

「見てご覧、マリア。彼らの腰、花が挿してある。ウインサムチラーブかな」
「Si. わたしの花ね」

　ウインサムチラーブは百合の一種だ。百合の花は、聖母マリアの象徴である。
　肩からふわりと体を浮かせたマリアが、素敵ね、とにこにこ笑う。
　主であるシノとは対照的に、マリアはわりあいに好戦的な性格をしていた。こうしてその性格に助かっている場面もあるのだが、さてはて、レディとしては些か問題があるのではなかろうか。

（まぁ、そのマリアに頼りきりなのだから、何も言えないけれども）

「しかし、甲冑を纏った兵士、か。……第一関門、と言ったところかな？」
「Si. シャラとムツキに少しくらいかっこいいところを見せないと、ね」
「やれやれ……」

　溜め息を吐いて、シノはくるん、と手の中で杖を回転させた。

「さて……。ではマリア、妖精学の実践と行こうか」

そして火の付いてない煙管をクルリと回してマリアに向け

ナズナはマリアに熱い視線を送っている