シュガーたちは水辺での戦闘を終え、他の参戦者との練習試合ではボコボコにされたものの、エンブリオを用いた闘法を学ぶ事ができたことに満足しつつ水辺から森へと進行した。

日々一揆には進展があり、シュガーたちのもとにも、伝令の参戦者や伝令を司るエンブリオたちが様々な情報を伝えてくれる。一部の参戦者は城の兵士と遭遇しただとか、素早さ重視の参戦者は森の妖精と是非契約したらよいだとか、城には地下牢があってやばい雰囲気だとか、魔ウィスプは超使えないだとか、ラリアンヌとかいうすごい漢がいるとか、噂にも似た様々な情報が飛び交っていた。

そして、今日も伝令のエンブリオがやってきた。鳥のようなエンブリオがシュガーのテントの上に舞い降りて、抑揚のずれた奇妙な声で託宣めいた言葉をささやいていた。

「次の週は全ての進行を停止すべし。停止すべし」

シュガーが伝令の言葉を訝しんでテントから這い出てみるも、伝令のエンブリオはすでに飛び立った後であった。全ての一揆活動を停止するべしとのことだが、攻勢の手を緩める事は王側に防御の準備を許す事につながり、俄には意図が図りかねる。しかし、他の参戦者から情報を集めてみると、どうもメルンテーゼでは暑さ避けに由来するお休みがあるらしく、住民たちは先祖を偲んだり、お祭りを催したり、バカンスに出かけるのだと言う。そして、その風習に従い、王城の兵士たちにも休暇をとるだろうとのことであった。

いわゆる、OBONであった。

のんきなもんだと嘆息するシュガーではあったが、冥府業界でも霊たちは子孫に会いに里帰りすることが多く、霊体の召還者たちも休暇をとる者が多い。ただ、シュガーがしばしば召還する平家の怨霊たちは、親子共々壇ノ浦で海の藻くずと果ててしまった者たちが多く、シュガーの周りにはOBONにも関わらず、鬼火や人魂がふよふよと絶える事がない。子孫の行く末を楽しみに見守れる霊魂たちが怨霊となることはなく、OBONは怨霊たちにとって格差を感じちゃう切なさ上乗せなシーズンなのであった。

冥府の彼方からシュガーの耳に風のような音が聞こえ、怨霊たちの声が聞こえてきた。やるせなさの滲む男の声であった。壇ノ浦で海中に沈んだ平家の益荒男たちであった。

怨霊たちを慰めるために、シュガーは毎年盆踊りを催していた。たとえ、異国の土地で一人であってもだ。ただ、今年はメルテーゼのお祭りにも参加できるし、エンブリオたちと一緒に踊る事もできる。１人で珍妙な踊りを踊って指とかさされることはなさそうだ。そんな風に考えていると、彼方の冥府から声が届く。明るく軽やかな女の子の声であった。

なにはともあれ、シュガーと怨霊と参戦者たちの、しばしの休日なのである。

ハチェットのカバーを外す。硝子の青い目が揺れた。

シュガーは怨霊と会話をしているようです…

ハチェットのカバーを外す。硝子の青い目が揺れた。

溶けて広がっている……