歩みの度に彼女の身体が喰われてゆくのだ。都度に都度に、継接ぎだらけの身体を彼女は今日も美しい姿勢で城に向けて運んでゆく。それは意志だ。律され、統べられ、遍く存在する糸をトレーンのように従える意志だ。彼女の眼差しは真っ直ぐに城を射抜いている。今は未だ、出会ったこともない新たな王に向けて。彼女にはエンブリオが、身代りのドールが、ネクターが必要だ。心臓のすぐ下に、彼女は金に輝く骨を持つ。

翅持つエンブリオ——フェアリーと呼ばれるもの。それを彼女は死の果てとして見つける。獣に寄り添うものとして。新王の使いとして唸り牙をむくエンブリオと異なり、メルンテーゼのあちらこちで時折見かける、この世界に満ち満ちている元素のひとつ、それに類するものであるように思われる。

死を看取る役割を与えられていた。死を控えたタカージュドールの『世界を支える小鳥』たちは彼女のもとでその役割を終え、彼女は終わりを見届ければ、世界に響き渡る純白の鐘を鳴らしていた。終わり。それはその小鳥たちの力能が途絶えることを意味するが、その判断は世界の誰にも赦されはしない。死を迎えた時女たちの指先には、鳥がとまるのだ。小さな、金の嘴を持つ黒鳥が。それを払いのけることなど出来ない。その力もなければ、赦されることもない。世界の意志の御使い、死告げ鳥、鳥籠に鍵かけるものの声。その翅を見ることのできる役割が、世界にただひとつ、存在していた。そのための……。

（だから、わたしにはきみがみえる）

その親和性はフェアリーの好奇心を擽り、その強さに滅ぼされるようにフェアリーは彼女の血を口にする。魅入られるようにも、絶望にも、あるいはその命の終わりに向かって進む激流に抗うことの希望にも思われる、そのどれもが入り混じる灰の風に躍る。生命の糸はこうして再度苧環として逆巻かれ、鋏の片刃はぷつりぷつりとまた誰かの、何者かの小指に繋がり、それを目途として飛び立つ花がある。彼女の右の小指から。薄紅の甘い痛み、死告げの翅。
それはオルガの持つ聖性の砕けた果てなのかもしれない。死はどこにもある。死の果てに在るものは何だ。タカージュドールにこの類の顕され方は存在しない。生も死も鳥籠の中で、大いなる意志によって制御されている。それを神と呼ぶ客人もあるだろう。ただ彼女には美の終わりに側仕えする役割を貴き父に与えられ、そうして幾つもの指先に止まる小鳥を見てきた。あの世界ではチェンジリングは生まれえない。ただ、父なき子供たちが存在し、世界の礎として美を支えてゆく、あるいはその元素のように分断された文節の一途に似た鳴き声が、庭園に燃えて落ちた。