狼たちを撃ち抜いたあとの庭にかすかな異臭がした。はじめは腐敗臭に思えたその独特の酸を伴った香りは、思い当たれば明らかに硫黄だった。振り返ると亡骸の横合いに一体の伸び上がった影のような、猫ほどの大きさの闇が佇んであった。闇は鹿に似た角と蝙蝠を思わせる翼、鷹の爪と両性具有者の輪郭を備え、つまるところ——ごく教科書的な悪魔の影に似ていた。

デビル、と呼ばれるメルンテーゼに一般的な種のエンブリオとして分類されるその名は、語源を遡れば「告発者」へ行き着く。謗る者、罵る者、中傷する者……何を？　神をだ。絶対的な権勢への、それが絶対的であるがゆえにある意味で無謀な敵対者。それがデビル、悪魔にあたる。

悪魔はいくつもの生物がまぜこぜになったちぐはぐな生き物として、生物界の美しい完成性への背徳者として描かれる。私の目の前に立ち尽くすその悪魔の影もまた、広庭を駆ける狼たちの生まれ持つ俊敏さや力強さとは似ても似つかなかった。それは醜く、調和せず、整合性に欠け、合目的性に悖り、損ねられており、傷ついていた。そしてその醜さそのものがひとつの告発を表象してもいたのだった。……

悪魔は政体に似ていた。苦心惨憺とともに生まれ出ようとしながら、しかし自らを形成仕切ることができない政体に。王を神の立場に置く……あるいは神を代行する立場に置く絶対王政は、王国を王の身体的な統一物として理解する。税制も法制も、秩序も平和も、およそあらゆる王国内の統一されたコルプスを揺るがすすべてのものは王の身体への反逆、王の身体への傷害罪として理解され、またこれを論拠として罪人は裁かれる。王が絶対者として君臨する間は、政体はひとつの身体として、正義と制度に〈大きな統一性〉を保つことができる。しかしひとたびの革命とともに王制が討ち滅ぼされ、王の具体的なコルプスが破壊され、それに伴い政治的なコルプスが論拠を失って解体され、新たな政体が生まれ出なければならない時……共和主義的な初期の政体は自らが統一されるべき方位を失って混乱する。絶対王政の模倣と、新たな自由主義の論難と、権益者の思惑と……さまざまな要素のキマイラ的な統一物（それとも非統一物）が、革命後の世界には多く顕現する。為政者たちは歩き始めたばかりの幼稚な政体を前に、多くは苦悩し、改善に着手する……それは最悪の独裁へ立ち戻ることもあれば、いささかはましな正義へ辿り着くこともある。だがひとたび絶対王政という〈清潔さのモデル〉を通したあとの政体は、その清潔な統一性において少なくとも一歩を譲るものにならざるをえない。告発者は悪魔にならざるをえない……ある具体的な挫折者の姿をとらざるをえない。

哀れんだわけではなかった。利の多い契約でもなかった。それでも私の生命力の一分を寝床として明け渡すには見合うだけの愛を覚える眺めだった。悪魔はどろりと赤黒い液状へ溶け落ち、よろめきながら私の右の薬指 annulaire へ宿った……〈悪魔との契約〉という大仰な言葉が指すにはあまりに心もとないごく普通の契約だった。悪魔もこの元素の世界には人間の隣人のひとつの形態にすぎなかった。私がこの土地をそれなりに愛しているゆえんは、つまるところそうした杜撰な相対主義にもあるのかもしれなかった。……