合流早々行き倒れになるかと心配したものの、特に問題は無かったようだ。
ルシウスは薬で痛みを止めていたようだったため優先的に治療を行った。
ベアトリスは暫く気を失っていただけなのでそれほど問題にならない。
モックは傷が塞がっていた。人造人体というのがどれほど生体に近いものかは解らないが、エンブリオとの関連も生じている。経過を見る。
私の方はというと、左脚がひどく腫れあがっていた。利き手などではないのが救いだ。
何にせよこの世界では、人体が自然に癒えすぎる。様子からすると私の左脚は激しく折れていた。

以下は直近にコンタクトを持った人物だ。いずれ想像を越える角度から追手が来た場合、はじめに疑いを持つべき人物としてリストアップする。

"背後への怯え"と自称する、レイジという若者に出会った。
彼は異常なまでに死角を、特に背後に立たれることを恐れている強迫性障害の男だ。
話ひとつにしてもひどく注意や態度が散漫になっており、しかし独特の話法が人を惹きつけているようだ。
ベアトリスが懐いているのも頷けるほど、彼はどちらかと言えばこちら側に居るべき人材だ。
出身がプロパガンダに扇動された国家反逆の暴徒だったのだろうか。どちらにせよあの強迫観念は厳しい戦いの中でしか芽生えないものだ。
彼の話術には多数を動かす力がある。十分観察し、必要な時には手を貸してもらえるようコネクションを保つ。
基本的には紳士の態度を保とうとしているようで、会話はしやすい相手だ。

トルラルール出身の"律法騎士"、アトラという女子と出会った。
年はどうやらずいぶん下だ。初見では小柄な男性かと思っていた。
歩き方が非常に硬く、女性のそれでは無い。戦闘中の立ち振る舞い然り、男性的な礼儀の良さと気品を持つ。
騎士を生業にする者は命をささげる代わりに身分が高く、だがそれゆえに自らを取り巻く階差に敏感に適応している者が多い。
しかし肝心の彼女率いる急造十字軍は出自も種族もバラバラで、何か私に近い存在なのかもしれないという印象を感じている。
通常こうした部隊を編成するのであれば、そうはならない筈だからだ。
もう少し会話を交わし、人となりを理解しようと思う。

獣の角を持つ女子、フィリーと出会った。
彼女はフードでその角を隠し、笑顔も慎ましやかに微笑む。練習試合では牙が覗いていたため、やはりおそらくそれを隠している。
彼女のそれは生まれ持った角や牙だろうか？私は種々の奇病のうち、彼女は病による変質を抱える者ではないだろうかと考えた。
そればかりは本人に質問することでしか答えが得られないが、元々がそうした種族であるのならば隠す理由はかなり限られている。
獣人であることで迫害を受けただとか、獣人であることがきっかけで低い身分を強制されていただとかだ。
そのうちのほとんどが、アトラの十字軍に参加しており、しかも決して低く扱われていないこととの矛盾がある。
もしも彼女の変質が病によるものなら、これは私の個人的な興味をそそる存在だ。

　＊　＊　＊

練習試合後。

ベロがバサッとマントを翻すとそこには青年の姿が！！

なんと女装的なアレだったのだ！！

（剣を鞘にゆっくりと納めると、絶叫が静かに現れて消える）

（剣から無数の血管が左腕を包む錯覚）

＼DORON／