藍色の帳の縁が、僅かに金色を帯びて輝いている。
見知らぬ星ばかりが瞬いていた空も夜明けが近づく毎に見慣れた色に染まりゆく。
もう一刻もすれば爽やかな青へと変わるだろう。


「今日はよい天気になりそうじゃの」


そろりと立ち上がり、伸びをひとつ。
ついでに後ろを振り返り見れば、皆はすやりすやりと夢の中。
早朝のひやりと澄んだ空気の冷たさは自分には心地良いものであったが、同行者達には少しばかり厳しいものであったか、毛布に包まるようにして寝入る姿が多い。


どこかで見たような景色にふむ、と首を傾げ独りごちる。


「華都の料理に確か似た様なものがあった筈じゃな。あれは確か……はて、何と言うたか……」
「おそらくは餃子とか饅頭といったものを想定されている気がしますが、同行者は食べないで下さい。料理なら作りますので」
「おはよう、坊や。しかし朝の挨拶としては些か物騒に過ぎぬか？わしはたしかに魔族ではあるが、人を喰う趣味は持ち合わせておらぬ」
「それは失礼しました、おはようございます」


小枝を両手に抱えてふらりと現れた黒髪の青年は此方の拗ねた素振りなど意にも介さずさらりと返す。
そのまま座り込み、小枝をぱきりぱきりと折っていく。おそらく、焚き付けに使うつもりなのだろう。


「それにしても随分と早起きじゃが、休息は充分に取れておるのかや？昨晩も随分と遅かったように思うのじゃが」
「ご忠告に従いまして、目を閉じて休んでいました——それに、あの時間に横にもならずに起きていたのは貴女もです」
「おんしも意外と『ああ言えばこう言う』タチじゃのう？流石は彼奴の縁者と言うか、どうにも強かな事じゃ」
「ありがとうございます。波瀾万丈を好む訳ではありませんが、多少の強かさは持ち合わせていても損は無いと」
「……それは彼奴の教えかや？」
「一応、そういう事になります。——ああ、そう言えば」


そう言うと傍に置いてあった寸胴をひょいと手に取り、静かで強かな同行者は続ける。


「お水をいただけますか？汲んできても良いのですが、折角貴女が起きているので」

どうせなら魔法で出した綺麗な水の方が安心でしょうし、と悪びれもせずに言うその様に思わず苦笑が漏れる。

「ふふ、良い良い。その程度、造作もない事じゃ。して、今朝は何にするのかや？」
「そうですね、朝方はまだ少し冷え込むようですから温かい具沢山のスープでも作りましょうか」
「ふむ、具材には馬鈴薯を所望しようぞ」
「承りました」


遠くに見える山々が、眠りから覚めたようにその頂を輝かせている。
さて、今日という新しき日にはどのような発見があるのやら——

視線には気付いていたが、敢えて何も言わなかったようだ。話しかけられて口を開く。

改めて外套を羽織る。

（手袋を着用する