自由と倦怠が人を殺す楽園の世界。正式名称たるアイオネラよりも、ただ楽園と呼ぶ人が多いだろう。
あらゆる必要から開放され、刺激を喪失したその世界で命を繋ぎたいのならば、誰もが己の探求すべき快楽を定め、自発的にその脳に刺激を刻む必要がある。
モルト・スフォルツァートの生存の為の道は「音」の探求。
それは音楽家であり、音響屋であり、楽器作成者も内包する幅広いものだ。
かつて幼少の頃、灰色だった世界を極彩色に塗りつぶすような音を聞いた事がその切欠だというが——いまやその探究心は世界の枠を踏み越え、異界の旋律、異種の発声、異形の楽器をも我が物とする境地に到っている。
リクエストがあればヴィオラで奏でる狂おしいドラムの音に乗せて、怪鳥の囀りに翻訳した古き神の賛歌を易々と届けてくれるだろう。まともに聞くと発狂するけど大丈夫、室内に何人いようとも、貴方にしか聞こえない——
とかそんなレベルだ。
無論それは一夜にして到達できるような境地ではないし、才能の観点では寧ろ恵まれない部類。
楽園世界の住人が持つ不老長寿の傾向が包み隠してはいるが、見た目以上に経験豊富ということだ。

一概にプラスと言うわけではなく、そうして「経験した事」が増えていく事は「新しい経験がなくなる事」。そうして世界の全てに新しさを感じなくなったときが、不老長寿を誇る楽園世界の住人の寿命、と言えるだろうか。
自称若輩のモルトにしても同じこと。異世界放浪は初めてではなく、実はこうした一揆や多重世界大戦というものを目撃する機会も今までに幾度かあった。
彼女が援軍要請に応じたのはこの世界の楽器や楽曲、素材に興味が合った為であり、一揆やソレにまつわる邂逅に対しては、実のところさしたる興味を抱いていなかった。

いなかったのだが——　どうやら楽園の外においては、そう簡単に倦怠を感じられるほど人生はフラットでは無いらしい。



戦場においては——

アメーバーだ！

キラーウルフだ！

ゴブリンだ！

食材についても——

リエン「私は料理係というものらしいが」

リエン「この兵士は食材になるのだろうか…？」

茶席を設ければ——

リトル・アイーダ「まぁ、そんなおヌシにはこれじゃな 」
(色濃い紅茶が入ったカップをチドリの前に置き、スプーンでひとかきする
　すると、芳醇なウォッカの香りが周囲にさっと広が

セレイア「・・・・」
エグゼ 「問題ゼロ」

数日でこれである。繰り返すが、モルトの経歴の中で異世界放浪は初めてではない。
初めてではないが、此処までカオスに傾いた状態の異世界は初めてかもしれない。

誰の言葉だったか忘れたが、もし相手側からも自分が同じように見られているとしたら——
そう考えると身悶え不可避な超感覚も味わえる状態だ。
そこらへん考えなくても、圧倒的に面白いアクション＆リアクションは興味に値する。


そう、無自覚のうちに興味を覚えてしまったのだ。
メルンテーゼ。大乱と混沌の内にある予測不能のこの世界と。
山彦や音叉と異なり、全く予想外の音色を返す存在であるところの——異世界の人間というものに。
いまはまだ無意識の衝動だが、やがて自覚を得る時が来るだろう。
そして普段そうであったように、こう考えるのだ。

と。



　
　
　









まぁ無理なんだけどね。

—マッスルポテトの切り落とした頭部を持ちながら