…さて、ここで問題です。
『成り行きで参加することになった一揆活動に、成り行きで結成したパーティーで臨むとどうなるでしょう』

現状の模範回答。
『意思疎通ができない』

というか、そりゃ二日しか寝食ともにしてないわけだから相手のことはよくわからないのは（ユーグレはともかくとして）当然なんだが、あまりにも…まともな会話ができていない。
素性を知るとか、例え100日一緒に過ごしてもそこまではわからないってことは珍しくないだろうが、名前も種族もよくわからないっていうのは…。

そも、会話ができないっていうのが、『会話が成り立たない』ってレベルじゃない。
端から会話を成立させる気がないんじゃないかという気すらしてくる、いや、実際そうなんだと思う。

かたや、あまりの姦しさに口を挟む余地すらない。
かたや、あまりの無口さに返事らしい返事が返ってこない。
更には、人の話をいかに曲解するかに尽力しているようにしか見えないときた。

ユーグレの連れの…どんな相手であろうと、女性への暴言はあまり吐きたくはないが、さすがに耐えかねる…有翼人の少女の言動行動はどうにかならないんだろうか。
元々感情の起伏も、口数も少ないジャネは、今までどちらかと言うと影が薄いと感じていたが、…あのやかましさの中にあると、却って目立つくらいだ。
畢竟、二人を相手にするよりジャネに状況の説明を求める方が楽にもなる…。

レントはまともに応答する気もなく、こちらを茶化すことにしか興味がないようだから、質問すればするだけ疲労感が募る。
…ダークエルフとエルフには性質の差がある。
俺の所でもそうだったが、エルフは高潔さや清浄さを好む傾向が強い、と感じていたのだが、そんなものは全く通用しやしない。
ダークエルフの俺が非力だってよりもこれはひどいと思う。

シラズに至っては名前しかわからない。
肌の色や耳の形、魔力の高さから、多分魔族なんだろう、と見当はつくのだが…。
……しゃべらない。一切全くしゃべらない。どんな声をしているのかすらよくわからない。
エンブリオの鳥はとにかく歌ってる。囀ってる。たまに「ファーーーー！！」とか奇声をあげてる。
もうどうにもなりゃしない。
わかっていることといえば…。

初日に大量のスライムに囲まれたとき、何故かシラズがスライムに絡まれまくって粘液まみれになったのだが、それが相当お気に召さなかったらしい。
そりゃあんだけべとべとにされれば嫌にもなるわな、しかもシラズは女の子だし…と思っていたら、自分のエンブリオを箒でボッコボコにしてストレス発散していた。
…それで、自分のエンブリオにとても優しくない少女だということは分かった。

その後べたべたになったシラズの長い髪を整えるのを手伝ったりと世話を焼いていたのだが…思い出したくないことがふと頭をよぎった。

そう、なんだかとんでもない誤解を受けている。
そしてそれに多大なショックを受けているんだが。

誰がロリコンだ。

子供や動物はどうにも放っておけない自分がいるのは自覚してる。
甘いと言われても放置してしまうと後味が悪い。

…が、それは保護対象としてであって、いかがわしい真似をしたことは一度もないし、そんなことを考えたこともない。

それがどこがどうなってロリコンだの、はたまたショタコンとかいう話になるんだ、全く、たまったもんじゃない。

いくら異世界で旅の恥をかきすてても、俺の認識がそれになるのは勘弁願いたい…。
…これについてはあまり考えたくも触れたくもないのでここらでやめておく。





それにしても、ほかのメンバーのエンブリオを見ている限り、明確な意思を持って行動したり、強い自己主張をしたり、契約者と対話したり自らの判断で行動を起こしたりというケースは他の三人にはあてはまらないようだ。

ナユはやはり変わり種なのだろうか。

だまし討ちのように俺を巻き込んでくれたが、何かと協力的ではあるし、今のところ害意も見受けられない。
我が儘や不遜な態度にはげんなりすることも多いが、契約を切るに至るような行動をとることもない。
一時的ではなく長期的な契約を必要としているのは確かなようだ。

意図は読めないが、こちらもすぐに引き渡す相手が見つかるわけでもなく、しばらくはナユも含め、全員の人となりを掴んでいくことが課題になりそうだ。





…ものすごく難易度高そう。

二人に何か言おうとしたが、声がかき消されてしまって何も言えない。耳をふさぎながらジャネに近寄った。

二人に何か言おうとしたが、声がかき消されてしまって何も言えない。耳をふさぎながらジャネに近寄った。