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　自分は幽霊だと、そう思っていた。分割世界を渡れば、それまで居た世界へと戻ることもできるだろうが、そうしようと考える心は、自分のどこを探しても出てはこなかったのだ。未練がないのではなかった。ただ、喪い過ぎていたのだ。何が正解だったのか、どこで間違っていたのかも、その時の自分には分かっていなかった。それが分からない以上『戻った』としても合わせる顔などなかった。疑問は山積していたが、それを問うための対峙すらも、今の自分が求める資格はないと感じていた。

　つまり、未練はあった。しかし帰るという選択肢は無かった。世界で一番見たくない物を見て……再びそれを見に行くことなど、怖くてできなかったのだ。だから、確かめないと決めたものが喪われたかもしれないことを知って、自分がこんなに動揺するとは思っていなかった。

　何も訊かないカメルが、それでも定期的に持ってきてくれていた、ほんの数ページの"新聞"——多くの分割世界を広く浅く綴った、世界間通信紙。そこには、インディストラの新技術であるとか、ディーグルートの観光案内であるとか、多くの世界の近況がほんの数行ずつ掲載されていた。その一つに書かれていた、小さな小さな経過記事。

　多くの犠牲者を出した"分割世界"規模の大異変から数年を経て、漸く復興の目処が立ったらしい、とだけ記述されていたその世界の名前は、セルフォリーフといった。



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　降り注ぐ殺気の中、カメルは自分の認識の甘さを感じざるを得なかった。甘く見ていた、とまで云うつもりは無い。しかし、自分たちは王政への叛逆者であり、第一に考えるべきはそれなのだと感じてしまっていたのは、事実だった。その認識とは裏腹に、眼前の水生生物たちは、先日対峙した兵士達よりも明らかに——強い。

　こういう世界だとは、分かっていた積りだったというのに。

　返答は待たず、一歩前に出る。多方向から攻められたら守りきることは不可能だ。先に注意を引いて、動きを操作するしかない。短い付き合いながら辿り着いた結論とタイミングは似通っていたようで、仲間の気配が打ち合わせなくして陣形を攻撃型のそれへと変じ、進むのを感じた。カメルはその事実に、感謝と心強さを覚える。それは忘れかけていた懐かしい記憶だった。

(他世界名については『分割世界事典』様から既知・往来許可のあるものをお借りしました。)