***

　あったかい朝。

　早起きしたお父さんが朝ご飯を作ってくれてる音、匂い。
　朝の苦手なお母さんが私の腰にぎゅっと抱きついてる温もり。

　あったかい朝。

　今日も、そんな朝が——

　訪れる筈は　なかった。
　寝惚け眼を擦りながら、ベッドから身を起こす。
　叫び声の発信源を探して部屋を見渡すと、最初から此処にあったテーブルの上にその子たちは居た。
　エティと、もう一人。あの子は誰だろう。白い翼の生えた、ちっさな、……エンブリオ？

　とりあえずはまず、しなければならないことを考えてみた。
　まだ本調子ではない思考を少し働かせただけで、即座に脳内に浮かんだ文字は四つ。近所迷惑。
　ついでにといえばついでだが、自分は朝が得意な方ではない、寝起きも決して良くはないのである。

　伸ばした手で掴んだのは、自分が使っていた枕だ。

　ばふっ。

　気の抜けた軽い音が、ぎゃあぎゃあ喚く二人の声を遮った。
　そう、自分が投げつけた枕が、それはそれは見事に二体のエンブリオを生き埋めにしてみせたのだ。

　ぴくりとも動かない枕を見つめながら一つ大きな溜息を吐く。

　今日もこうしてメルンテーゼでの一日が始まった。

**

　ぐすぐすとまた大粒の涙を零し始めた目の前のエンブリオに、また無意識の内に溜息が零れる。
　現在地は変わらずベッドの上。投げつけた枕を元の場所に戻し、とりあえずは事情聴取とその上に二人を座らせたのは３０分程前のことだ。
　そのお陰で粗方ではあるが、この天使のようなエンブリオ——ピユが自分の部屋に居る理由は把握することが出来た。

　まず最初に、ピユとエティは知り合いらしい。どういう繋がりかは知らない。聞いてもちゃんとした返事は返ってこなかった。
　そしてピユもエティと同様、私とエンブリオの契約がしたいらしい。といってもエティのように強引にではなく、ちゃんと許可を取ろうとする辺り良識はあるような、気はする。
　ついでに何故かは知らないがピユも私のことを菫の子と呼んでいたので、訂正させたのが先程の事。

　ぶんぶんと首を縦に振るピユに、一先ずは相手を信用してみる。エティの方は次煩くしたら輪ゴムで縛ると伝えてあるので、多分大丈夫だろう。
　そんなこんなで朝の大騒動はこれにて一件落着だ。ルカとシズには後で伝えに行こう。まずは着替えを終わらせなければならない。

　じいっと、目の前の天使の姿を見つめてみた。ちょこんと枕の上で正座するピユの姿が中々珍妙なものだから、つい。
　綺麗な金色の髪、可愛らしいワンピース、それから白い小さな翼。
　それだけを見たらただの愛くるしいエンジェルってだけで済むのだが、問題はそこではなかった。

　ピユの両手には、どうしてか手枷が嵌められている。なので勿論自由にその手を動かすことはできないし、よく見ると解放するための鍵穴も用意されていない。
　そして足には足枷と、それに鎖で繋がった人参。人参だ。但し単なる人参ではない。凄く重い。ピユよりも数倍身体の大きな私が両手でやっと持ち上げれるほどの重さである。どうやってこんな人参を引き摺って歩いているのか疑問ではあるが、そこはエンブリオパワーみたいなものが、何か作用しているのかもしれない。

　なぜそのようなものを付けているのか、尋ねてはみたものの、結局またそれにも大した返事は返ってこなくて。

　そういえば大人しかったな。彼女でも少しは反省するときがあるらしい。
　ばたばたとベッドの上で駄々を捏ねるエティの頭を一度だけ軽く撫でてやると、嬉しそうに耳が動いた。
　すると羨ましそうにその様子をピユが見つめていたので、その頭もそっと撫でてやってから、洗面所へと向かう。

　あの二人は、この現状、嫌がったりしないだろうか。

　顔を拭く為のタオルを取り出しながらふと感じた不安。それが杞憂で終わるだろうということはわかっていても、心配せずにはいられなかった。
　煩いだけならまだいい。力を貸してくれるなら嬉しいことだ。けれど、もし、それだけじゃないのなら。二人に迷惑をかけてしまうようなことが、これ以上起きたら。

　吐かずにはいられなかった溜息は、今日で何回目のものなのだろう。

相手に気付かれたことにようやく気付いたようだ！

澄ました顔をしているが、その視線は腰のうさぎ人形に注がれている。

興味深そうにエティを見る。

そこまで言うと、困惑した様子のアリシアに向き直る。

妙に懐っこい感じでアリシアに尋ねる自称魔王であった。

……入る気はないとそう言われた少女は貴方をじっと睨みつけるように見ている

が、あっさりと引き下がりポケットからメモの帳のようなものを取り出すとなにか記入している

絶対PKKの奴らが裏で工作してんだろと呟きながら
サングラスを頭につけた女の子の様な絵に☓をつけていく

そう言うと少女は踵を返し森へと歩いて行く、その後姿は若干物悲しそうにも見えた

小さく頭を下げて、別な方向へと走り去り。

背後からくるくると回転しながら踊りでて。