俺は炎の料理人オズワルド。


などということはない。

けれど、はるか故郷フリントのブレイズバースの家で、厨房に並ぶ食材たちを思い浮かべ、
その葉の一枚、根の一本、肉の筋に至るまでが
並み以上の品質を誇っていたこと、
その有り難みをしかと思い知ってしまう程度には、
調理という行為に多少なりとも親しんだ人間だ。

今、俺が前にしている素材は、
雑草と呼んでも差し支えのないような植物の切れ端。
商品として店に並ぶのが信じがたいような、乾ききった干し肉やら、豆やら木の実やら、
いつ掘り出したのか分からないような芋や‥‥そんなもの。
とはいえ、今このご時世。種類があるだけマシと言うべきなのかもしれない。
一揆騒動の余波なのか、元々肥沃な地ではないのか‥おそらくは、前者と考えるのが妥当だろう。
まったく、傍迷惑な王がいたものだ。
見ろ、腹の虫が平和な田舎を恋しがっているじゃないか！


さておき、手にしたナイフと鉄鍋と火で、こいつらをどう腹に入れよう？
ヘクターはともかく、ジェニーに妙なものは食わせられない。
あのクロムという男も、外界からの客人(事故ではあるけれど)なれば、相応にもてなして然るべきだ。
ヘクターはともかく。

やはり、ここは腕の見せどころと言う他ない。
追い詰められた状況でこそ、料理人の技術が一層に輝くもの。
むしろチャンスだと思うべきだろう。
未知に惑うなかれ、背かず挑むべし！





‥まあ、機会があればの話。

キレイと言われ、ジャスパーは羽根を広げた。
よろこんでいるようだ。

ユージェニーはクロムとピンクのやり取りを頷きながら聞いていたが、"ご主人様" のくだりで
くすり、と笑いがこぼれた。

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

　

急に手を取られ、キメ顔を決められ、
思わず頬を紅らめたビブリオバベルは、
目をぱちくりさせたあと、噴きだして、手をパッと離した。

　

　

　

　

ごちゃごちゃ言っているが目は合わせられないようだ。
手で自分の髪の毛先をいじっている。

狼に向けて手を叩いている‥

ヘクターを纏う炎が彼の持つ弓に集約する。
その矢先は黒き魔女へと向けられた。

ヘクターの肩に、宥めるように手を置く。
視線は同じく、魔女へと注がれる。

そうして、一礼。

そう言うと目を閉じ、早口に異国の歌のような言葉を唱え始め。

ふわ、と風が彼女の周りにまとわりついた。
大鍋が彼女の前に歩み出た。

(魔女の前に立つと、軽やかなステップを踏み始める—)