（……ふむ）

済んだ水辺を移動しながら、軽く思考に沈んでゆく。
……余談だが、こういう時に自分の意思で動く必要がないのは中々に便利だと思う。

（……結論から言えば、私はこの世界を知っている。
　より正確に言うならば、“知っている世界とよく似ている”という所か）

遠い昔——時間の感覚など既にないが——私がまだ自己認識すら曖昧だった頃。
“躍動の世界”と呼ばれる世界に私はいた……はずだ。
“はず”と言うのは、どうにも顛末を覚えていないからだが、
“私”の根底を作り上げたのは、その世界である事に間違いはない。

（躍動の世界と否定の世界……そして此処、メルンテーゼ、か）

二つある物に三つ目がある事に、何ら疑問はない。
並行世界と呼ぶべき物は、無数に存在しているのだから。

（そこまでは良いとして、だ。
　問題は……この世界は、危機に瀕していないのではないか、と言う事だ）

確かに小規模のいざこざは各地で起きているように思える。
だが、それが世界を巻き込む騒動に発展するとは……到底思えない。

創造主も随分と粗雑な仕事をするものだ、と思う反面、
“お前如きにはこの程度の仕事がお似合いだ”と言われているような気もして気分が悪くなってくる。

（そもそも、この世界における“正義”の所在。
　それすらも曖昧なままだ。
　……身の振り方を、考える必要があるかも知れない）

そこまで考えてから、ふと気付く。
この世界における“私”とは、所詮はただの道具に過ぎないのだ。
文字通りの。

（……Que sera sera、か）

自分の意思とは無関係に動き自分の体を想いながら、心の中で軽く自嘲し、思考を取りやめた。
……どうせ、なるようにしかならないのだから。