魔女、という言葉を私は身近に感じる。

私に魔法の素養が無いから？
周りにそういう者がいたから？
キトの言う魔法の学園世界の話を楽しみにしていたから？
それはすべて間違ってはいない。
でもそれは、その言葉に思う芯ではないの。


魔女とはなんだろう、と考える。


御伽噺の魔女というのは、
黒いローブを羽織り、尖ったつばの広い帽子をかぶっている。
そして皺くちゃの老婆だったりうら若い女性だったりする。
黒猫やヒキガエルを使い魔にして、箒に跨り空を飛んだりする。
村人に魔法をかけて蛙や鼠にしてしまったり、子供を食べたりする。

恐ろしく、気まぐれで、知識のある女性。
そう、知識のある女性。
それが魔女。

森に身を隠すすべを知り、魔法の知識や薬品の知識を持っている。
どうすれば力を得られるのか知っている。
どうすれば世に関わらずに生きられるか知っている。


魔女とは、知識。


例えば、生まれたばかりの赤子が流暢に言葉を話したらどうだろう。
まだ歩きもしない子供が世界のつくりや物の仕組み、未知の機械の中身を知っていたらどうだろう。

ある者は「神の子」と呼ばれるだろう。
その一方で「悪魔の子」とも呼ばれるだろう。

そしてそれが女だった場合「魔女」と呼ばれるだろう。


私が魔女という言葉を身近に感じる理由。
それは私自身がかつて魔女と呼ばれた女だから。

そして、またいつか魔女と呼ばれるだろうと判っているから。

突然の呼びかけにも動じる事無く振り返る。
次いで、“しまった”というような顔をしている女性を見て、小首を傾げた。

口元に手をやりながら、何かを考えているようである。
やがてその手をおろすと、やはり小首を傾げて問うた。

申し訳なさそうにしている事が、逆に申し訳ないといった風である。

少女が1人走っている。足取りはおぼつかなく、しきりに背後を気にしている。
背後に気をかけているため前方への注意がおろそかになり、少女はイコンに軽くぶつかった。
そしてはじめて顔を上げる。…だが少女は謝る様子もない。

（不意に風が吹き、しげみががさりと鳴る。
　少女は風の音に過剰に驚き、悲鳴を上げてその場にうずくまる。
　…
　やつれ、野生エンブリオに襲われたか、それとも別の理由か体中にキズを負っている。
　少女はイコンに食い下がるだろうが、それでも見知らぬ少女だ。
　突っぱねることは用意に出来るだろう。…）

視線に気づいたペケが、クンネチュプに何か囁いている。
ペケから何かを聞いたクンネチュプも、振り向いて視線を確認した。
視線が気になるペケと、視線の主とを交互に見比べ、口を開く。

ふ、と銃口から立ち上る紫煙を吹き消した