ふわふわと、そして時々安穏とした笑顔と言葉遣いで同行者の面々と接するシンシアの姿がそこに有った。
元が、辺境の外界の人が滅多に訪れない場所で育った彼女にとって眼前の、
両手の指の全てが埋まる程の集団で行動すると言う経験は無いに等しい事だったので、
どう対処すれば良いのか、自分はどの位置で在れば良いのかが未だ掴みきれていないが故に
それが逆に悪く言えばあやふや、それっぽく言えば掴みどころの無い存在として
この少し大きな団体様の中で、なんとかこの一揆参加という日常をこなしていた。


幸いなのは、同行者達が常に急かすようなタイプではなかった事だ。
一見すると、なんとものんびりとした集団である。
しかしこうした生活を送る上で必要な物事はそれぞれが心得ているのか
目に見えた大きなトラブル等は無い様に見える。


そんな同行者達との一日も終わり、その日の同行者達に頼まれた仕事をこなし
漸く一息、ついた頃にシンシアは身を落ちつけた。
一人でこなさない分、当初見られた不安の色は幾分か影を潜めた様に見える。

ぼんやりと周りを見れば自分たち以外の集団も周りには多い様で
遠くざわざわとした音の波となり周りを賑やかしていた。
その音にじんわりと身体に出てきた疲れに身を任せている彼女の脳裏に
昨日、鬼に言われた一言がフツリ、心の中に沸いた。



「あんまりおっとりしてっと、鬼に喰われんぜ？」



その一言に、自分はどんな顔をしたのだろうかと、考えるも思い出せない。
彼の言葉にピタリと閉じ切っていた彼女の昔の記憶が引き摺り出された。



白い霧が立ち込めるいつもの深い谷。
道を誤った両親と幼い彼女。
谷の一等深い場所。
白霧の奥に潜むヌタヌタとどす黒い闇の奥。


潜む化け物。両親と逃げる彼女。


追う足の速い化け物。


逃げきれぬと悟った両親に


化け物へと差し出された


幼い彼女。


そして




かのじょは——————・・・


・　・　・

・・・

…

ポツリ、つぶやいた彼女の顔は夕暮れの闇の中。
誰に見られる事も無かった。



唯一人、その彼女と契約すると決めたエンブリオだと名乗る白い彼女以外には。

そう呟いた彼女の表情は、素敵な物を見つけた様なそんな笑顔だった。

耳をぴこぴこと動かしながら、一匹の妖怪があなたの元へと来る。ただ、少し訝しげな表情をしているようだが。

きょろきょろと周囲を見回すも、目当てのものは見つからなかったのか、「ま、いいか」とひとつ呟き、目を戻す。

ふと、あなたの翼に目をやり、戻す。

　　　　　　ぐっ。無駄に自信満々である。

　　　

　　　　羽織ったローブのフードを深く被り、大鎌を手にし対峙する。
　　　　　　うっすら、彼女の周りを薄い霧が漂っている様に見える。

　　　　
　　　　　張り詰めた空気が解けると、手にした大鎌は白霧となり辺りに霧散して消えた。

　　　

　　　　羽織ったローブのフードを深く被り、大鎌を手にし対峙する。
　　　　　　うっすら、彼女の周りを薄い霧が漂っている様に見える。